特定技能外国人は、外国人材が日本で働く上で必要なスキルのうち、一定の「日本語能力」と「技能」を備えた人材です。
働く業種・職種によっては、母国語や母国で培った生活習慣・スキルを活かす機会も多く、日本人スタッフ以上の活躍が見込める職場もあります。
その一方で、現在の職場に少なからず不満を感じてしまった場合に、退職を決断する人材が決して少なくないことも特定技能外国人に見られる傾向の一つです。
この記事では、特定技能外国人の離職率や離職の理由に触れつつ、自社で働く特定技能外国人の退職を防ぐ際のポイントについて解説します。
特定技能外国人の退職に関するデータ
これから特定技能外国人を雇用しようと考えている企業、すでに特定技能外国人を採用していて長期雇用を検討している企業にとっては、おそらく「どのくらいの特定技能外国人が退職を決断しているのか」が気になるのではないでしょうか。
まずは、特定技能外国人の退職に関するデータを紐解いていきましょう。
外国人材の離職率
ハローワークシステムから抽出されたデータによると、2024年6月時点での非自発的な離職の割合は、抽出対象の外国人全体で39.0%となっています(在留資格計)。
非自発的離職とは、勤務先や事業の都合で前職を離れることをいい、外国人全体の4割弱が諸事情で職場を離れていることが見て取れます。
また、同年同月における外国人材の就職率は14.5%で、全体としては微増傾向ですが、決して高い数値とはいえません。
このことから、外国人材全体の離職リスクは日本において高く、離職後に再就職するのも簡単ではないことが分かります。
特定技能外国人の離職率
出入国在留管理庁の資料によると、特定技能制度施行から2022年11月までの離職者数は、次のような結果となっています。
※参照元:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第3回)資料
データを見る限り、特定技能外国人全体における離職者の割合は16%程度となっていますが、分野によって離職率に差が生じている点は無視できないポイントになるでしょう。
例えば、宿泊業は在留者の人数に対して離職者の数が多く、業界全体の人材事情を反映する結果といえるかもしれません。
参考記事:ホテルの人手不足は自業自得?本当の原因と解決策について解説
また、特定技能外国人の退職後の状況は以下の通りです。
※参照元:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第3回)資料
母国等への帰国に至っている人材は全体のおよそ3割で、転職を検討している人材も同程度の割合で存在していることが分かります。
このことから、特定技能外国人にとって、転職は現実的な選択肢の一つに数えられるものと考えてよいでしょう。
特定技能外国人と日本人材との離職率比較
特定技能外国人の離職率が高いものかどうか判断するためには、日本国内で働く日本人材の離職率と比較することが重要です。
厚生労働省が公表している新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者は、学歴別に次のような結果となっています。
先述した通り、特定技能外国人の離職率は全体で16.1%であることから、相対的に見て日本人材よりも離職率は低い傾向にあることが分かります。
データを見る限り、長期的に人材を育成することを想定した場合、特定技能外国人は日本人材以上に活躍・貢献が見込めるものと考えられます。
特定技能外国人が退職する主な理由とは
日本人材に比べれば低い割合とはいえ、特定技能外国人の100人中15人以上は、何らかの理由から退職・転職に至る可能性があります。
企業が特定技能外国人の長期雇用に成功するためには、特定技能外国人が退職を検討・決断する主な理由について理解を深めることが大切です。
言語の違い
世界には様々な言語があり、それぞれ習得にあたっては一定の期間を要しますが、日本語はその中でも特に難しい言語の一つとされます。
また、日本人は英語やその他外国語に対して苦手意識を持ちやすく、日本語が話せない外国人とのコミュニケーションを負担に感じる人も一定数存在しています。
特定技能制度自体は、そういった日本国内の事情を勘案してか、一応は「一定の日本語能力」がある人材に在留資格を交付する形になっています。
しかし、行政手続きや通院においては難解な日本語が登場することも多く、特定技能外国人の日本語能力では十分に対応できないケースも珍しくありません。
当然ながら、実務においても業界用語・専門用語が飛び交うことは日常茶飯事であるため、自社独自の言葉も含め特定技能外国人は理解する必要に迫られます。
理解が追い付かないまま現場の仕事を任されてしまうと、不十分なコミュニケーションから作業が非効率なものになってしまったり、先輩社員に悩みを言語化して相談できなかったりする可能性があります。
このような状況が続き、コミュニケーション不足が深刻化すると、より働きやすい環境を求めて特定技能外国人が離れてしまうことは容易に想像できるでしょう。
働き方の違い
日本人にとって当たり前のことが、外国人にとっては疑問に感じられるケースは少なからず存在しており、お国柄の違いから職場の働き方に馴染めない人もいます。
比較的分かりやすい例としては、次のようなものがあげられます。
- 謝罪に対するスタンス(日本はよく謝るが、海外では謝らないことが多い)
- 働き方に対するスタンス(メンバーシップ型とジョブ型の違い、など)
- 優先度の違い(職場優先、家族優先、プライベート優先、など)
よく「日本人はすぐ謝る」などと言われますが、これは日本において謝ることが“人間関係を円滑に進める”ための一つの手段として認識されているためです。
しかし、海外諸国においては「謝ったことで責任・不利益が生じる」ことになったり、「謝ることで問題と誠実に向き合うことから逃げている」と評価されたりするおそれがあります。
働き方に関しても、日本人は総合職として多様な業務に従事することが多い傾向にありますが、海外では自分の仕事にのみ集中し成果を出すことに集中する傾向が見られます。
そのような考え方の違いから、必然的に人生における優先順位にも違いが見られ、職場よりも家族を優先する人が多いのです。
参考記事:外国人材が生活する上で困ること|意外なポイントについても解説
賃金や労働条件・評価とのミスマッチ
転職が可能な特定技能外国人は、現在働いている職場に対して少なからず不満を抱いた結果、退職に至ることもあります。
特定技能外国人の中には、日本の文化や歴史などに興味を持って働こうと考える人もいるかもしれませんが、やはり多くの人は賃金・労働環境の改善を求めて日本にやって来ます。
来日するにあたり、外国人材は労働条件を含む様々な情報を、短期間で頭に入れなければなりません。
そのような事情から、理解が不十分なまま働き始めて、当初想定していたほどの収入が得られなかったり、任される仕事内容に納得がいかなかったりすると、その気持ちに折り合いを付けられず悶々と過ごすことが予想されます。
加えて、企業からの自分に対する評価が期待に沿わないものだと、不満が頂点に達して退職・転職に至るおそれがあります。
自社が誠実に対応しているつもりでも、特定技能外国人の理解が及ばないことは十分考えられる話ですから、適切なサポート体制を構築することが大切です。
特定技能外国人の退職を防ぐポイント
特定技能に関しては、2023年6月9日の閣議決定によって「特定技能2号」の対象分野が拡大しており、優秀な特定技能外国人を在留期間の上限なく雇用することが可能になりました。
特定技能外国人を定着させる施策を講じ、退職を防ぐポイントを押さえておけば、自社における安定した人員確保の実現につながります。
以下、具体的な退職を防ぐポイントについてご紹介します。
母国の文化や考え方を理解する
一口に特定技能外国人といっても、それぞれの国で文化も考え方も異なるため、まずは社内にいる日本人材が外国人材に対して歩み寄ろうとする姿勢を見せましょう。
外国人材の中には、日本人から見て理解できないような言動をとる人材も一定数存在しており、頭ごなしに否定するのではなく「なぜそうするのか?」を理解しようとする意識を職場全体で共有することが大切です。
例えば、日本ではドアなどを「開けたら閉める」のが常識であり、きちんとドアを閉めていないと注意されます。
しかし、海外ではドアを閉めていると「邪魔をしないように」という意味になる場合があり、オフィスなどでは外国人材側が“良かれと思って”ドアを開けっぱなしにしているケースも考えられます。
生活習慣レベルでの違いは、事前に日本と他国の違いについて共有しておかないと、不要な軋轢を生むおそれがあります。
その一方で、生活習慣の違いから新しいアイデアが生まれることも多く、ファミリーレストランで特定技能外国人を採用した後、多国籍料理のメニュー提供が可能になった例も見られます。
異なる文化との触れ合いは、時として自社に大きなメリットをもたらします。
特定技能外国人に活躍の場を与える意味でも、母国の文化・考え方について理解を深められるような、文化交流の機会を社内で設けることをおすすめします。
説明や会話に気を配る
特定技能外国人と日本人がコミュニケーションをとる際は、日本人同士の会話で見られる抽象的な表現、省略は避け、できる限り簡単かつ具体的な表現でコミュニケーションをとりましょう。
特に、意識して職場で取り入れたいのが「やさしい日本語」です。
やさしい日本語とは、日本語を勉強している人が最初の段階で学ぶ2,000程度のボキャブラリーと、単文主体で構成された単純な構造の日本語表現をいいます。
日本語を使い慣れた人にとっては不自然に感じられる表現ですが、使いこなせると特定技能外国人の業務に対する理解を助けるとともに、円滑なコミュニケーションの実現につながります。
例えば、一般的な日本語をやさしい日本語に変換すると、次のような表現になります。
このような要領でコミュニケーションをとりつつ、特定技能外国人向けの業務マニュアルを制作する際は、やさしい日本語で書かれたマニュアルを用意するとよいでしょう。
ただし、労働条件・評価制度といった内容に関しては、特定技能外国人の正しい理解のため、母国語で資料を作成するなどの工夫が必要です。
参考記事:製造業で必要な「やさしい日本語」力|外国人材のための英語公用語化は必要ない?
労働条件・職場環境等の説明や改善に注力する
日本の労働環境は、海外諸国と比較して特殊に感じられる部分も少なくありません。
給与の支払いに関しても、「給与支給額」と「手取り額(差引支給額)」の違いを理解できない外国人材は一定数存在しています。
日本企業の多くは、給与支給額から所得税・社会保険料をあらかじめ差し引いて、労働者の口座に給与を振り込みます。
この手取り額の概念については、特定技能外国人に正確に説明しなければ、混乱を招いてしまうおそれがあります。
また、収入アップを目指す人材に対しては、査定に関する情報やボーナスに関することなどを丁寧に説明する必要があるでしょう。
昇進や昇給を目指すためにはどのような努力が求められるのか、現在の状況が続けば将来的にどのようなキャリアが目指せるのかなど、人材側が自分の未来を想像できるような説明を心がけたいところです。
まとめ
特定技能外国人は、日本国内の新卒者と比較して離職率が低い傾向にあり、自社にマッチすれば長期的な活躍が期待できます。
その一方で、分野によっては離職率が高いケースもあり、制度上転職も認められていることから、企業には人材を繋ぎ止めるための努力が求められます。
特定技能外国人の長期雇用にあたっては、採用段階から人材を見極め、ミスマッチを防ぎつつ、実績豊富な登録支援機関から適切なサポートを受けることが大切です。
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