宿泊業

ファクトリーラボ株式会社の代表

山本 陽平

公開日

April 22, 2024

更新日

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ホテルの人手不足は自業自得?本当の原因と解決策について解説

目次

アフターコロナの時代を迎え観光客が増える中、ホテル業界は人手不足に苦しんでいます。

新型コロナ禍においては、多くの企業が従業員の解雇・賃金カットに踏み切らざるを得ない状況でしたが、状況改善後は労働者が戻らず苦戦しているホテルが多い状況です。

この点については、厳しい時期に人を切ったことによる「自業自得」という意見も根強く、日本人労働者の多くが雇用の不安定さを敬遠し、ホテル業界に見切りをつけている可能性も否定できません。

この記事では、ホテル業界が人手不足に陥った本当の原因と、人手不足の解決策について解説します。

ホテル業界が人手不足に陥ったのは「自業自得」か

新型コロナ禍では、苦しい思いをした人が多かった一方で、特需に沸いた業界もありました。アイデアによって方針を一時的に転換し、難を逃れた企業も少なくありません。

その一方で、ホテル業界がとった選択肢の多くは、世間の目からは消極的なものに見えたようです。以下、多くの人がなぜホテル業界の人手不足を「自業自得」と評価するのか、具体的な理由を解説します。

経営を最優先した施策

ホテル業界は、基本的に繁閑期の差が激しく、観光地では特にその傾向が強くなります。イベントのタイミングでは混み合い、逆に冬場の寒い時期は人が遠のくなど、地域によって傾向も様々です。

また、社会情勢や景気にも収益が左右されやすく、観光客が財布の紐を締めてしまうとなかなか収益に結びつきにくくなります。そして、顧客が減少した分のしわ寄せが、非正規労働者に降りかかってしまうのです。

そもそも、ホテル業界で非正規労働者が多くなっていたのは、繁閑差に対応することが一つの理由でした。シーズン・曜日・時間帯などによって変動する需要に対して、適切に人材を投入できるよう、経営陣は非正規労働者を活用していたともいえます。

しかし、非正規労働者は正社員と比較して人件費は安く抑えられていることが多く、ホテル側のコスト削減策として機能していた点は否めません。新型コロナ禍においては、非正規労働者の「雇い止め解雇」を強行したホテルグループもあり、その非情さが各種メディアでも報じられました。

こういった「経営最優先」のホテルのスタンスは、当然ながら多くの労働者の不信感をあおる形となります。

その結果、新型コロナ禍が落ち着いても雇用の安定が期待できないとして、業界を敬遠する人材が増えているものと推察されます。

採用市場の「売り手市場」化

労働者側が、自分の働きたい職場を選びやすくなっていることも、ホテル業界が人材不足に悩む理由の一つです

日本では少子高齢化に伴う慢性的な労働力不足が続いており、厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(令和5年12月分及び令和5年分)」によると、令和5年(2023年)12月の有効求人倍率は1.27倍となっています。

また、ホテル業界が含まれる「接客・給仕職業従事者」の有効求人倍率は3.19倍となっており、求職者1名に対して求人が3つあるという状況です。それだけ、求職者にとっては仕事を選びやすい状況といえるため、あえて自分の希望にマッチしない職場を選ぶ必要はなくなります。

ホテルの求人に対して人が集まらない理由の多くは、職場の待遇・条件の悪さにあるものと推察されます。

求人検索エンジン「求人ボックス」の求人統計データによると、ホテルスタッフの仕事の年収・時給・給料は以下の通り算出されています。

  • 派遣社員:平均時給1,397円
  • アルバイト・パート:平均時給1,084円
  • 正社員:平均年収352万円  ※(更新日:2024年2月19日)

国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」では、給与所得者の1人あたりの平均給与は458万円となっています。

正社員であっても、ホテルスタッフの平均年収は、全国の給与所得者の平均年収に比べて100万円以上安い状況です。

単純に収入だけを比較しても、ホテルスタッフになるより収入が高い求人があれば、求職者としてはそちらを選びたくなるでしょう。加えて、先述した通りホテル業界への不信感が根付いている日本人労働者なら、収入が低い場合であっても別の職場を選ぼうと考えるはずです。

ホテル業界が人手不足に陥った本当の原因

ホテル業界は、新型コロナ禍に陥る前から問題を抱えていました。

収益性の低さ・施設の老朽化・キャリアパスの不明確さ・スタッフの激務などの問題に対して、各ホテルがなかなか新しい手を打てず、多くのホテルスタッフが苦しい働き方を強いられていました。

そこに、新型コロナウイルスが追い打ちをかける形になったのです。

厳しい状況の中で懸命に働いてきた従業員を守れず、解雇・早期退職という決断を下した経営陣に対して、世論はシビアな評価を下しました。

ホテル業界に対するネガティブなイメージは、新型コロナ禍で拡散してから未だに根付いており、Web上には業界に対する辛辣な意見が少なからず存在しています。

よく聞かれる格言として『信頼を失うのは一瞬、取り戻すのは一生』というものがあります。ホテル業界が人手不足に陥った本当の原因は、新型コロナ前から進んでいた「業界への信頼の失墜」にあるといえるのかもしれません。

労働者からの信頼を失った結果、ホテルの総支配人が客室を清掃したり、大手ホテルが過去のリストラによって人材採用・定着に悪影響を及ぼしていることを認めたりと、ホテル業界の人手不足は深刻化しています。

人手不足が続くと、主力人材が空洞化するリスクもあるため、どのホテルでも対応は待ったなしといえます。

安月給・重労働・不安な雇用という三重苦は、ホテル業界に限らず宿泊業の構造的な問題として残っています。この点について、根本的な解決策を業界全体で実施しなければ、安定して人を雇うのは難しいでしょう。

 なお、宿泊業全体の人手不足について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

 参考記事:宿泊業の人手不足はアフターコロナで深刻化する?対策についても解説

ホテル業界が苦しい中でも人手不足を解消するには?

客足が戻っても対応できない状況が続けば、機会損失は膨らんでいく一方です。ホテル業界には、苦しい中でも人手不足の解消策を模索し、実行することが求められています。

以下、人手不足の解消策について、主なものをいくつかご紹介します。

少数精鋭の現場を作る

新規採用者を集めるのが難しい状況においては、今いるスタッフでどのように仕事を回していけるのかを考え、少数精鋭での現場作りに努めることが大切です。

現地スタッフによる企画会議を実施したり、1人のスタッフに複数の仕事を任せたりすることで、個々のスタッフが「ホテルを運営する」という視点から業務をとらえることにつながります。

社員が自ら考えて行動する体制を築くことで、現場の生産性向上も期待できます。普段から言いたいことを言える環境を作り、従業員一人ひとりが目的を持って行動できる環境が構築できれば、やがては少数精鋭の現場が出来上がることでしょう。

マンパワーに頼らない環境を作る

人材が思うように採用できないのであれば、極力人に頼らず作業ができる方法を模索することも必要です。例えば、床面の掃除を業務用ロボットに任せてしまえば、それだけ作業工数を減らすことができます。

まとまった数量のロボットを一括で購入するのが難しい場合、サブスクリプションサービスを利用して安価に導入する選択肢もあります。ゴミ箱にセンサーを搭載し、どの場所のゴミ箱がよく使われているのかを把握した上で作業すれば、効率的なゴミ回収スケジュールを立てられます。

客室清掃に関しては、個々の技術によってスピード・質に差が生じるため、ベテランと新人スタッフでは清掃完了までの時間も異なります。極力スタッフ差を減らすためには、行うべき業務・チェック項目をマニュアルやリストにまとめ、すべてのスタッフが効率的に作業できるよう環境を整えることが大切です。

その他、清掃用具・備品が古くなっているようなら、新しいものに交換して汚れが落ちやすいようにすると、清掃のスピード向上が期待できます。大量のリネンを運ぶ「リネンワゴン」など、清掃の作業負担を減らす備品を用意することも、スタッフの作業効率化につながるでしょう。

無人・有人のメリハリをつける

少数のスタッフでホテル業務を円滑に進めるためには、無人でも成立する仕事・有人でなければ成立しない仕事を分けて考える必要があります。

近年注目されているのがスマートチェックインで、端末を設置してチェックインを自動化することにより、フロントの混雑解消・フロントスタッフの再配置などが可能になります。

複数の言語に対応している端末・システムを用意することで、インバウンド集客の観点からも人材育成のコストが省けます。そのほかにも、次のような技術を現場に取り入れることで、限られたスタッフを効果的に配置することが可能になるでしょう。

  • 人感センサーの設置による清掃・メンテナンスのタイミング通知
  • 電話に代わって、24時間いつでも回答が得られるチャットボットの導入
  • ホテル管理システム(PMS)と各種システムの連携による、予約・フロント業務の一元化

ホテルの人手不足解消の新しい選択肢「外国人採用」

現在働いているスタッフのレベルアップ・ロボット等の導入だけでは、どうしても対応できない部分は数多く存在します。

例えば、富裕層をもてなすためには一定のホスピタリティ人材を準備する必要があり、日本語以外の円滑なコミュニケーションが求められるケースも珍しくありません。

そのような場面に対応できる人材を確保するためには、日本人スタッフを一から教育するよりも、経験豊富な外国人材を雇用した方が、対応力を早期に向上させることにつながります。

以下、ホテル業界も含む幅広い業種で注目を集める、外国人採用について解説します。

ホテルで外国人材を採用するメリット

ホテルで外国人材を採用すると、日本人スタッフを採用する場合に比べて、次のような点で有利に働く可能性があります。

  • 英語話者を採用することで、海外から来た顧客とのコミュニケーションを円滑に進められる
  • 母国よりも良い待遇を求めて来日した人材も多く、強い熱意を持って仕事にあたってくれる
  • 海外でのホテル勤務経験がある人材に、VIP対応などを任せることが可能になる など

外国人材の採用は、人手不足の解消だけでなく、技術的・言語的な意味合いでのメリットも多いのが特徴です

在留資格と就労可能分野に注意

外国人材をホテルで雇用する際は、外国人材の在留資格と、その在留資格に応じた就労可能分野に注意が必要です。

一口に在留資格といっても様々な種類があり、以下の通り任せられる業務にも違いがあるため注意しましょう。

在留資格就労可能分野
技術・人文知識・国際業務外国人材がこれまでに培ってきた知識・経験や、母国の文化・言語と関連性のある業務に従事可能
<就労可能業務の一例>
●フロント業務(外国人対応、各種会計業務など)
●事務・営業職(通訳・翻訳、外国語指導、外国人観光客向け宣伝など)
特定技能(宿泊業)国内で労働力確保が難しい一部の産業・分野につき、一定の技能・日本語能力を持つ外国人材が取得できる在留資格で、宿泊施設に関連する各種業務に従事可能
<就労可能業務の一例>
●一般的なフロント業務
●企画・広報業務
●接客業務(レストラン含む)
特定技能(外食業)特定技能の一分野であり、外食分野で働ける在留資格
<就労可能業務の一例>
●ホテルのレストラン勤務
※(フロント業務の対応不可)
特定技能(ビルクリーニング)特定技能の一分野であり、不特定多数の人が利用する建築物の清掃業務が可能
<就労可能業務の一例>
●施設の清掃
●客室清掃・ベッドメイキング

上記の在留資格について、より詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

参考記事:宿泊業の特定技能について|ホテル・旅館で働く外国人材は将来性に期待大!

参考記事:外食業の特定技能|受入条件や従事する業務・雇用の流れなどを解説

参考記事:ビルクリーニング業の特定技能人材について|受入要件や注意点を解説

外国人材の日常生活にも気を配ろう

実際に外国人材を迎え入れた場合、日本で生活する際の不便を考慮しつつ、適切な形でサポートすることが大切です。

日本の慣習や生活上のルールを教えることは必須ですが、一度教えただけではイメージがつかめないケースも珍しくないため、必要に応じて相談に乗れるスタッフを確保しておきましょう。

外国人材の宗教やライフスタイルにも配慮し、必要に応じて「食材を手に入れる場所」・「休みの日に身体を動かせる場所」についてもアドバイスすると親切です。都会になると交通手段も複雑になるため、基本的な電車の乗り方や切符の買い方に加えて、自社や施設までのルートを説明してあげましょう。

また、特定技能以上の在留資格を持つ人材は、ある程度の日本語力は担保されているとはいえ、日本語の理解度も外国人材によって差があります。サポートに携わるスタッフは、現場でもプライベートでも、できるだけ「やさしい日本語」の利用を意識しましょう。

参考記事:製造業で必要な「やさしい日本語」力|外国人材のための英語公用語化は必要ない?

まとめ

求職者がホテル業界を敬遠し、どちらかというと厳しい目を向けがちな理由の一つとして、新型コロナ禍での対応があげられます。

新型コロナ禍以前から、ホテルの人材獲得は厳しい状況だったため、日本人スタッフの雇用に苦戦しているホテルは数多く存在しています。

そのような中で人手不足を解消するためには、既存スタッフのレベルアップや新設備導入に加えて、外国人材の雇用が有効です。

宿泊業で働ける特定技能人材、技術・人文知識・国際業務人材をお探しの方は、お気軽にFactory labまでお問い合わせください。

ファクトリーラボ株式会社の代表

代表取締役社長

山本 陽平

1990年東京生まれ。2013年上智大学総合人間科学部卒業後、東証1部上場の資産運用会社に入社しコーポレート部門に配属。2017年、外国人採用支援及び技能実習生の推進をしているスタートアップに参画。事業部長として特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務の人材紹介や派遣事業の展開及び支援を取り仕切る。人的な課題、採用や定着に大きなペインを抱えた製造業に着目し、一貫したソリューションを提供することを目的として2022年にファクトリーラボを設立し代表に就任。