日本の国際競争力は年々低下しており、長年日本経済を支えてきた製造業も例外ではありません。
2020年以降は、新型コロナ禍での対応も迫られることとなり、さらに働き方改革で従業員の労働時間にも一定の上限が設けられているような状況です。
人材が集まらず、技術承継も思う通りにいかず、予算の都合から設備投資が難しいという企業は珍しくありません。
そのような中、製造業を営む企業が課題を解決するためには、どのような形で課題解決に向けてアプローチすべきなのか、気になる経営者の方・企業担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本の製造業が変化すべき方向性・課題・解決方法について、複数の観点から解説します。
日本の製造業が直面している課題とは
日本は資源が乏しい国の一つで、エネルギー自給率も10%台と非常に低い数値です。
製造業における材料調達も同様で、素材大国ではあるものの、その素材を生産する際に用いる原料の多くは輸入に頼らざるを得ないのが現状です。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、原材料価格は高騰し、部素材不足も深刻な状態です。
壊れた給湯器を修理しようにも、その素材が手に入らないといったような事態が、現実に起こっています。
さらにはロシア・ウクライナ情勢の深刻な悪化により、日本の貿易は負担を強いられています。
以下、2023年時点における、日本の製造業の課題についてまとめました。
技術継承・事業継承
日本と他国を比較した際、日本の優位性は技術力とされています。
しかし、その技術力を若い世代に継承できないことが、企業ひいては日本にとって大きな問題となっています。
世界的なIT技術の発展にともない、製造機械の設備がある環境ならば、同品質の製品を安定して作れるようになりました。
企業のグローバル化にともない、それまで企業固有の技能・技術だったものが世界へ流出し、その価値が薄らいでしまったのです。
結果的に、日本国内での技術・技能継承が活発化せず、日本国内だけでの成長も難しくなってきています。
手順書やシステムによって残すのが難しい高度な技能は、職人技をベテラン人材が若手人材に教育する必要があり、時間や意欲の問題から継承が進んでいないという現実も無視できません。
事業承継の観点から考えた際に問題となるのは、経営者が希望する通りの後継者が見つからない点です。
「痛くない注射針」で有名になった岡野工業も、残念ながら後継者が見つからないことで廃業となってしまいました。
先の見えない時代において、一社に自分の人生をゆだねる社員は少なく、働きやすさを優先して転職する人材を誰も責めることはできません。
未来が不確定な中で、技術承継や事業承継にかかる時間をリスクと考える若手が増えるのは自然なことですから、何らかのアドバンテージがないと承継はスムーズに進まないでしょう。
労働人口の減少と働き方の多様化
日本では、年々労働人口が減少傾向にあり、内閣府は2060年の労働人口を3,795万人と推算しています。
急速な人口減少により国内市場が縮小すると、日本は投資先としての魅力は低下、さらに成長力の低下にもつながります。
つまり、多くの企業は限られたパイの中から労働者を探さなければならず、自社で働いてもらえる人材自体が見つからないことも十分考えられます。
そのような中、新型コロナ禍でリモートワークが普及したことにより、個人の働き方も多様化し、製造業を選ぶメリットが薄らいでいます。
製造業には、どうしてもマイナスイメージが付きまとい、夜勤や服の汚れ、仕事の厳しさがクローズアップされがちです。
実際のところ、職場によって働きやすさには違いがあるものの、どうしても応募者の確保は難航する傾向にあります。
企業は働き手が少ない中、どうやって必要な人材を確保するのか考える必要があり、最悪の場合は「人がいなくても稼働する」体制を構築することが求められます。
外国人材に焦点を絞って応募者をつのるなど、海外に目を向けた対策も必要になるでしょう。
設備投資できない
帝国データバンクの調査によると、2022年度の設備投資計画が「ある」企業の割合は、大企業・中小企業・小規模企業でそれぞれ以下の通りとなっています。
上記の通り、企業規模によって投資意欲には差が生じており、中小企業、小規模企業の設備投資意欲は伸び悩んでいます。
具体的な理由としては、先行きの不透明さ・借り入れ負担の大きさ・原材料価格の高騰などがあげられます。
製造業の現場で設備投資が進まないと、経年劣化した設備を使い続けることになりますから、どうしても従業員の作業負担やメンテナンスにかかる時間が増えます。
実際には、設備投資を進めた方が作業効率化を実現しやすいと言われますが、前向きに検討できる情勢ではないことが慎重な判断につながっているものと推察されます。
日本の製造業における、継承面での課題解決
製造業において、技能や技術を承継する・または事業を承継するにあたり、どのように課題を解決すべきなのでしょうか。
以下、課題解決に向けた、具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
熟練者の技術を動画で残す
技術継承において、これまで熟練者の技術を学ぶためには、いわゆる「見て盗む」プロセスが欠かせませんでした。
しかし、このプロセスは個々人の能力次第で覚えるスピードに差が生じるため、若年者が敬遠するリスクは否めません。
そこで、熟練者の技術を動画として残すことができれば、言語で表現しにくい情報が伝わりやすいでしょう。
マニュアルだけでは判断できないプロセスを、動画によって詳細に確認できる分、長年の経験やコツにあたる部分を理解しやすくなります。
社内でノウハウを共有できるようにする
熟練者のノウハウは、動画やマニュアルとして保管するだけでは意味がなく、実際に業務に携わる人材に理解してもらわなければなりません。
そのためには、各種ノウハウに触れられる時間を増やす必要がありますから、具体的に技術・技能習得にかける時間を就業時間に組み込むことが大切です。
ただし、熟練者の仕事が終わらないなど、教育する側に負担が生じることが予想される場合は、特定の誰かに負担がかからないようスケジュールを調整するのがよいでしょう。
継承する技能・技術の分量が多い場合は、いつ・何を教えるのかを分類しておくと、効率的な教育を実現できます。
オンラインで視聴した動画の内容を確認しながら、実際にOJTで学ぶことで、理解度を早めることが期待できます。
可能であれば、スマホやタブレットなどで内容を確認できるようにすると、より早い習得につながるでしょう。
事業承継はM&Aも視野に入れる
M&Aとは、企業の買収・合併のことで、2つ以上の会社が1つになったり、A社がB社を買ったりすることをいいます。
具体的には、第三者に事業を売却・譲渡することで、事業承継を実現する方法が該当します。
M&Aによって事業承継が実現すれば、後継者問題・従業員の雇用先確保など、多方面での問題を解決することができます。
また、廃業・倒産にともなう取引先のリスクも軽減でき、経営者が所有する株式を第三者に売却すれば、その利益を引退後の生活費に充当できるメリットもあります。
M&Aを検討する場合、M&A仲介業務を専門に行っている企業や、各種士業・金融機関などを頼るのが一般的です。
自身で相手先を見つけて交渉する場合は、マッチングサイトを利用する方法もあります。
日本の製造業における、労働力確保に向けた課題解決
日本の労働人口が減少する中、製造業が労働力を確保するためには、これまでの採用方法だけにこだわらない選択肢を選ぶ勇気が求められます。
次は、労働力確保の観点から、課題を解決する方法についてご紹介します。
AI・ICT技術の導入
高品質を維持しつつ、少ない人員で生産性を高めるためには、人力で対応する部分を減らしていくことが効果的です。
そのために役立つ方法の一つが、AI・ICTなど生産性向上につながる技術を、自社で導入することです。
AI・ICT技術の活用例は幅広く、ニーズに応じて以下のような活用方法が考えられます。
なお、AI導入のメリットや事例について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
外国人労働者の採用
日本に比べて、海外諸国の中には平均年齢が若い国も数多く存在します。
年収を増やしたいなどの理由から、日本で働くことに積極的なスタンスの人材も少なくありません。
外国人労働者を1人採用するだけでも、職場の雰囲気が大きく変わることが期待できます。
極端な話、外国人労働者とコミュニケーションをとるだけでも、日本人労働者にとって刺激になる部分は多いはずです。
また、外国人労働者の中には、日本人にはない発想を持っている人もいます。
新しい考え方や発想を取り入れることは、現場や企業の発展にもつながるでしょう。
もちろん、外国人を採用するハードルは決して低くありませんが、チャレンジする価値は十分あります。
登録支援機関・人材紹介会社などを活用して、欲しい人材を確保できるよう動きをかけてみることをおすすめします。
現在働いている人材の離職を防ぐことも重要
新しい人材を確保することや、AI等の技術を導入することは確かに重要です。
しかし、現在自社で働いてくれているスタッフの気持ちに寄り添うことは、経営者・企業が決して忘れてはならないことです。
製造業における離職理由は、勤続年数が長くなればなるほど、給与への不満に集中していく傾向にあります。
また、職場の人間関係に何らかの問題がある場合・仕事が評価されずやりがいを感じていない人が多い場合は、やはり離職率も高くなりがちです。
労働意欲を高めるためには、以下のような施策を講じることが有効です。
上記の施策を一気に進めることは難しい場合、従業員の理解を得られる範囲で少しずつ進めるだけでも、環境の変化を感じてもらえる可能性が高まります。
日本の製造業における、設備投資面での課題解決
老朽化した設備を新しくすることも大切だが、せっかく設備投資を行うなら、これまでのビジネスモデルを変革することも想定して投資を行った方がベターです。
以下、設備投資を検討するにあたり、重要な考え方をいくつかご紹介します。
現状改善のための設備投資に注力する
設備投資には、大きく分けて「収益性を高める設備投資」と「現状改善のための設備投資」が存在します。
世界情勢が安定しない状況においては、現状改善のための設備投資に力を注いだ方がよいでしょう。
インターネットの普及にともない、ユーザーは自ら必要な情報を収集できる環境で生活しています。
単純に「良いものを作れば売れる」時代は終わり、個々人の必要に見合った最適な製品を探す時代がやってきたと言えるでしょう。
つまり、これまで使用していた機器を単純にアップグレードするだけでは、希望する形での成果は得られない可能性があります。
よって、今ある設備で実現できることを踏まえ、業務改善やシェア拡大に向けての設備投資を検討した方が、投資額を抑えつつ効果を高めることにつながります。
DX化は少しずつ進めていく
現状改善の設備投資における一つの方向性として、DX化の推進があげられます。
DX化を進めるにあたっては、何が自社の課題なのかを明確にした上で、小規模な取り組みから始めていくのが基本戦略です。
データの手入力が課題なのであれば、入力の自動化ができるシステムを導入する。
情報の一元管理をして、スタッフ全員で共有したいのであれば、電子黒板を導入する。
こういった取り組みを、無理のない範囲で進めることで、業務効率化の実現につながります。
大規模な投資を行い、回収がおぼつかなくなるようであれば、少しずつ始めるのがよいでしょう。
中小企業向け補助金を検討する
製造業の設備投資において、融資以外で予算を確保するためには、補助金の存在が重要です。
事業再構築補助金・IT導入補助金など、設備投資に活用できる補助金の種類は数多く存在します。
事業再構築補助金は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、事業再構築を検討している中小企業向けの補助金です。
具体的には、
上記のようなことを考えている中小企業等の、新しい挑戦を支援するための補助金と言えます。
また、IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者向けの補助金で、ITツールの導入に活用できます。
なお、外国人雇用に活用できる補助金もありますから、気になる方は以下の記事もご覧ください。
外国人雇用で役立つ助成金|支援制度や補助金との違いについても解説
まとめ
日本の製造業の課題は、すでに小手先の対策では解決できないレベルです。
自社が直面するすべての課題を、包括的に解決することは、すべての企業で可能とは限りません。
中小企業には、技術・技能および事業継承、労働力確保、設備投資の3点にポイントを絞り、それぞれの課題解決に向けて何らかの対応を講じることが求められています。
大規模なシステムの導入が難しいと感じ、外国人材の採用による人手不足解消を検討中の経営者の方・企業担当者の方は、お気軽にFactory labへご相談ください。