新型コロナ禍の影響が薄らぐ中、再び宿泊業で人手不足が目立ってきています。インバウンド客の増加など、これから数多くのビジネスチャンスが待っているはずの業種にもかかわらず、人手不足のため稼働率を下げてしまう宿泊施設は少なくありません。
アフターコロナに向けての動きを本格化させなければならない状況において、宿泊業は人手不足解消に向けて何から始めるべきなのでしょうか。
この記事では、宿泊業が人手不足になりやすい主な原因・背景に触れつつ、具体的な対策について解説します。
宿泊業の人手不足の実態について
株式会社帝国データバンクが行った「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によると、旅館・ホテル業における正社員の人手不足の割合は75.5%、非正社員の人手不足の割合は78.0%となっています。
また、正社員に関しては上位10業種中トップ、非正社員は2位の人手不足割合で、企業の人手不足感は高止まり傾向と言えます。観光地など宿泊客が多い地域の場合、アフターコロナにおけるマンパワー不足は極めて深刻な問題です。
特に、小規模ホテルでは支配人自らリネン類のまとめ・ゴミ回収などを行わなければならない状況に追い込まれているケースもあり、機会損失は大きいものと推察されます。
宿泊業が人手不足になりやすい原因とは
他業種に比べて、宿泊業は業界全体で“人手不足になりやすい土壌”があると考える人は少なくなく、様々な理由から求職者が集まりにくくなっています。
以下、宿泊業が人手不足になりやすい、具体的な原因について解説します。
有事における雇用の不安定さ
新型コロナ禍で浮き彫りになった宿泊業の現実として、有事における雇用の不安定さがあげられます。緊急事態宣言で多くの人が外に出ることを控える中、多くの宿泊施設では人員削減を余儀なくされ、中には入社して半年で希望退職の憂き目を見た社員もいたそうです。
似たような問題が各種メディアで報じられたことで、「宿泊業は労働者を守ってくれない」という悪いイメージが、多くの求職者の頭に刷り込まれてしまったことは想像に難くありません。
パンデミックだけでなく、日本では地震や台風などによる災害も深刻であることから、少しでも雇用の不安定さを避けたいと考えた結果、宿泊業が応募候補から外れるのは致し方ないのかもしれません。
求職者が魅力を感じない労働環境
どんな求職者にとっても、仕事に対する“やりがい”や“報酬”は職場を探す上で重要なことであり、各種条件に差があれば自分にとって有利な方を選びたいと思うはずです。多くの場合、宿泊業の職場は、求職者が歓迎する類の労働環境には含まれていないものと考えられます。
代表的な宿泊業の傾向として、長時間労働があげられます。原則として宿泊業界は「24時間営業」が求められる業界であり、少人数でシフトを回している職場の場合、個々の従業員にかかる負担も相当なものです。
一方で、宿泊業は様々な場面でホスピタリティを求められる業種であり、業務量増加が労働環境の悪化に拍車をかけています。人員によっては十分な日数の休日をとることも難しいため、ワークライフバランスを従事する求職者は、宿泊業を「第一に避けるべき業種」と判断する可能性が高いでしょう。
“割に合わない”賃金
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」では、宿泊業・飲食サービス業の平均賃金は257,400円となっています。これは西暦で2022年のデータですが、同調査の令和2年(2020年)の結果は278,200円で、2万円以上賃金が下がっている状況です。
求められる技能や労力の水準に比べて、得られる賃金が割に合わないことを理由に、宿泊業を避ける・離れる労働者は一定数存在しています。収入が限られる状況においては、プライベートで選択できる範囲も自然と狭まるため、業界全体で収入増に向けた対策が望まれるところです。
宿泊業で働く労働者は、新型コロナ禍でその存在の重要性が再評価されました。
感染者の宿泊療養や、医師・看護師・介護士・スーパー勤務者など他業種のエッセンシャルワーカーのサポートに携わった宿泊業の労働者たちが、多くの人の尊敬を集めたのは記憶に新しいところです。
社会や生活の基盤を支え、人々が豊かに暮らすために不可欠な「エッセンシャルワーカー」として、ホテル・宿泊業を生活必需サービスに分類する自治体もあります。にもかかわらず、宿泊業の賃金水準は決して改善されたとは言えない状況なのです。
宿泊業の人手不足が目立つ背景
宿泊業が人手不足に悩む原因を紐解くと、業界全体の問題が浮き彫りになってきます。それでは、宿泊業の人手不足が社会全体において目立ってきている背景としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
以下、宿泊業の人手不足が目立つ背景について解説します。
観光需要の回復
WHOによる緊急事態宣言の終了や日本における5類感染症移行をもって、世界がアフターコロナに移行したことで、観光需要が回復傾向となりました。国内外の観光客数が増加するにつれて、宿泊業の需要が高まれば、それに伴い従業員側の業務量も増えることでしょう。
これまで新規雇用を抑えていた宿泊施設が、できるだけ早く機会損失を減らし稼働率を上げるためには、新たに即戦力となるベテラン人材を雇用する必要が生じます。
その結果、採用市場において宿泊業の求人が目立つようになることが予想されます。
新規ホテルの開業
日本国内では海外からの観光客を誘致する様々なイベントが開催されており、比較的最近では東京オリンピックの開催があげられます。2025年には大阪・関西万博を控えているため、更なる観光客の増加を見込み、新規ホテルを開業する企業もあります。
経済面では、日本は円安傾向となっているため、海外の観光客による消費も期待されています。その他、外資系企業のホテル進出も、国内における宿泊業の人手不足につながるものと推察されます。
宿泊業で人手不足を解消するための対策
業界全体で人手不足の傾向が見られる状況において、自社が人手不足解消を実現することは、決して簡単な話ではありません。
しかし、以下の対策のいずれかに着手できれば、同業他社に先んじて人手不足を解消できる可能性があります。
大前提は“労働環境改善”
具体的な対策を講じる前に、まず経営陣・人事採用担当者が押さえておくべきポイントは、「現状維持のまま求職者からの応募を増やすのは非現実的である」という点です。新しい人材を迎え入れるだけでなく、現在働いている人材が自社から離れることを防ぐのも、重要なポイントになります。
そのためには、ホテル・旅館にとって“労働環境改善”が最重要課題となることは間違いなく、場合によっては人材採用以外の方法で労働環境改善に向けた対策を講じる必要もあるかもしれません。あるいは、これまで想定していなかったタイプの人材を業界に迎え入れるなど、より積極的な施策が求められるものと考えてよいでしょう。
労働環境改善の観点からとれる主な対策としては、次のようなものがあげられます。
その他、簡単に対応できる業務は効率化を進め、どのスタッフでも対応できるようにマニュアル等を作成するなど、コア業務とノンコア業務の区分を明確にすることも重要です。
福利厚生の充実を検討する
宿泊施設で働くスタッフは、例えば「他社の福利厚生制度を利用してやって来た人」を迎え入れることもあります。実際、社員がプライベートで旅行する際の費用が一部割引になるなど、手厚い福利厚生制度を備える企業は少なくありません。
具体的には、次のような福利厚生の充実をはかると、社員の定着率を高めることにつながります。
なお、リゾート地で働くスタッフ向けに社員寮を用意している職場は多いですが、プライバシーに配慮していない寮は敬遠される可能性があります。
自社の施設が相部屋タイプの場合は、トイレや入力施設等を分けるのが難しいとしても、せめて個室部分ではプライベート空間が確保できるようにした方がよいでしょう。
DX化を検討する
近年のデジタル技術は進化が著しく、宿泊施設においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)化は進んでいます。代表的なものに予約・客室管理の自動化があげられ、ロビーでよく見かけるようになった自動チェックイン機もその一例といえます。
デジタルサイネージ・AIなどを使った観光案内を利用すれば、フロントスタッフ等への問い合わせで発生する負担を軽減することが期待できます。バックオフィス業務や在庫管理等をツールによって自動化することも、宿泊業の実務にかかる負担軽減につながります。
宿泊業の人手不足で検討したい「特定技能」人材
ここまでご紹介してきた対策以外にも、宿泊業で新しくスタッフを確保するための方法が存在します。中でも、外国人労働者の「特定技能」人材を雇用することは、今後も労働人口の減少が避けられない国内においてより重要性を増しています。
宿泊業の特定技能人材とは
そもそも特定技能とは、国内で労働力確保が難しい一部の産業・分野において、一定の専門的知識・技能を有する外国人が働くために必要な在留資格の一つです。そして、特定技能人材とは、特定技能の在留資格を取得している外国人材のことを指します。
特定技能の対象分野は12分野に分かれており、宿泊業もその中の一つに含まれます。
宿泊業の特定技能人材として認められるためには、宿泊業技能検定試験・日本語能力をはかる試験でそれぞれ合格点をとる必要があるため、企業としては採用段階で一定の実力が見込める人材を採用できるメリットがあります。
なお、宿泊業の特定技能人材を受入れるにあたり、より詳しい情報を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
【参考記事】宿泊業の特定技能について|ホテル・旅館で働く外国人材は将来性に期待大!
特定技能人材を雇用するメリット
特定技能人材を雇用すると、日本人スタッフだけで業務遂行にあたる場合に比べて、宿泊客に対する多様な対応が可能になるでしょう。日本語だけでなく、母国語でのコミュニケーションも期待できることから、ホテルとして集客のターゲットを見直すチャンスにもなります。
特に、訪日観光客が多い中国・韓国出身の労働者を確保できれば、日本人スタッフの言語教育期間を短縮する、あるいは省くことも検討できます。
宿泊業の特定技能人材を採用することは、純粋な人手不足の解消だけでなく、副次的に得られるメリットも大きいのが特徴です。
特定技能人材を雇用する際の注意点
宿泊業で働ける技能があり、日本語もある程度話せるスタッフであっても、特定技能人材は外国人です。基本的に企業による支援が必要であり、多くの場合、在留中の支援計画作成や実施を登録支援機関に依頼することになります。
義務付けられた支援以外で、普段の生活においてサポートが必要なケースもあります。ある意味では、日本人を雇用する場合以上に負担がかかる可能性もある点を押さえておきましょう。
登録支援機関への委託にかかるコストや、外国人材が日本での生活において不安に感じることなどを知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
【参考記事】登録支援機関に支払う費用|特定技能外国人を雇うなら押さえておこう!
【参考記事】外国人材が生活する上で困ること|意外なポイントについても解説
プロフェッショナル人材が欲しい場合は「技術・人文知識・国際業務」
ホテル・旅館等で幅広い業務を任せるのではなく、フロント業務や事務・営業職などのプロフェッショナル人材を雇用したい場合、在留資格「技術・人文知識・国際業務」を持つ外国人材を採用する選択肢があります。
特定技能人材と違い、単純作業を含む業務を包括的に任せることはできませんが、人材の持つスキルを活かす形で次のような作業に従事してもらうことが可能です。
技術・人文知識・国際業務について、より詳しい情報を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
【参考記事】在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは|要件や申請の流れ・注意点も解説
まとめ
宿泊業の人手不足は慢性的に続いており、雇用の不安定さや労働環境の過酷さなどを理由に、新規就労を控える人も少なくありません。賃金も決して高いとは言えず、安定して人材を確保するためには、業界全体で対策を講じる必要があるでしょう。
今後はますます国内外の観光客増加が予想されるため、人手不足に悩むホテル・旅館等には、早急に労働環境を改善するなどして既存の働き方を変えることが求められます。
外国人の宿泊業での雇用を考えている方は、全国各地のホテルに関する豊富な紹介実績を持つFactory Labにお任せください。