業種拡大がささやかれていたものの、具体的な動きが分からなかった「特定技能2号」の対象分野は、令和5年6月9日の閣議決定によって正式に拡大が決定しました。
以前の2分野から11分野に拡大することから、幅広い企業で人材活用の選択肢が増えることになるため、今から準備を進めたいと考えている経営者・企業担当者の方も多いのではないでしょうか。
特定技能2号は、継続更新さえしていれば、実質的に在留期間の上限がない在留資格です。
この記事では、特定技能2号の業種拡大が正式に決まった背景と、外国人材を雇用する企業が新たな人材市場の変化に対応するために押さえておきたいポイントを解説します。
特定技能2号の業種拡大に関するあらまし
出入国在留管理庁の公式サイトでは、特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(分野別運用方針)について、具体的な変更点が紹介されています。
以下、特に重要なポイントをまとめました。
新たに追加される対象分野
変更前のルールで、特定技能2号の対象となっていた分野は、建設分野と造船・舶用工業分野(溶接区分のみ)が対象でした。
変更後はこれらに加えて、以下の分野が新たに追加されます。
その他の分野として特筆すべき点は介護分野で、介護分野の特定技能2号追加は、現行の「介護」の在留資格があるため見送りとなっています。
正式に省令が改正され次第、その施行をもって新ルールがスタートとなりますから、企業は開始時期を注視する必要がありそうです。
求められる業務・技能水準
出入国在留管理庁では、特定技能2号の外国人に求められる業務・技能水準につき、それぞれの分野において以下のレベルと規定しています。
まとめると、それぞれの分野についてハイレベルなスキルを持ち、プロフェッショナルまたはマネジメント人材として働ける外国人が、特定技能2号として認められることになります。
技能水準をはかる試験は、既存の試験のほか、各分野で新たに設けられる試験があることから、こちらも試験内容が明確化した際に確認が必要です。
なお、この件に関する問い合わせ先は、以下の通りとなっています。
特定技能2号の業種拡大が決まった背景
特定技能の在留資格に関しては、過去にも特定技能2号の業種が拡大される見通しがささやかれており、当メディア記事でも取り上げています。
以下、令和5年6月というタイミングで正式に閣議決定したのはなぜなのか、その背景について考察します。
制度上の限界
特定技能1号の在留期間は、通算で5年が上限となっています。
そのため、せっかく日本で働き始めたのに在留期限を迎えてしまい、育った人材が母国へ帰ってしまうケースが増えてしまいました。
技能実習制度と異なり、特定技能は「国内人材を確保することが困難な産業分野での人材確保」を目的とした制度であることから、必ずしも母国への帰国を前提とした制度ではありません。
優秀な人材を自国にとどめる上で、通算5年という条件は大きな障害となるため、特定技能2号人材の拡充のため国が動いたものと考えられます。
人手不足による国力低下
株式会社帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」によると、2023年時点で人手不足を感じている企業の割合は、正社員で51.7%・非正社員で31.0%にのぼります。
特に人手不足割合が高い業種としては、以下のものがあげられます。
【正社員】
【非正社員】
正社員・非正社員ともに状況が深刻なのは旅館・ホテル業で、インバウンド需要の高まりもあって人手不足が非常に目立つ結果となっています。
客室稼働率を減らしつつ施設改修を行い、単価アップにつなげる動きも見られるものの、どうしても打てる手が限られてしまう点は否めません。
また、JICA緒方貞子平和開発研究所が発表している「2030/40 年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書」においても、2040年の日本における外国人労働者の需要・割合について、以下のような踏み込んだ数字が算出されています。
予想される未来の姿を踏まえ、日本が持続的な経済成長を実現するためには、中長期的な労働力として外国人を活用できる社会の構築が求められます。
スポット的な労働力としてではなく、末永く日本で働いてくれる人材を確保する上で、特定技能2号の存在は重要であると言えるでしょう。
経済先進国の人材不足
世界各国でも人材不足は深刻化しており、特に経済先進国においては、優秀な人材を確保するのが難しくなってきています。
大手人材サービス企業であるアメリカのマンパワーグループが行った調査「2023 Global Talent Shortage」では、全世界の企業の77%が採用難という結果が出ています。
経済協力開発以降(OECD)の加盟国・ユーロ圏の平均失業率は低い水準となっており、一例としてスイスでは、採用難に陥る企業が74%にものぼると言われています。
ちなみに日本は78%となり、世界各国の平均を超えています。
調査の中で、特に人材不足が深刻な主な国としては、アジアでは台湾(90%)・香港(85%)・シンガポール(83%)、欧州ではドイツ(86%)・ポルトガル(84%)・ハンガリー(82%)などがあげられます。
上記の結果を見る限り、人材不足および優秀な人材の確保を課題としている国は、日本以外にも多数存在するものと考えてよいでしょう。
そのような中で、安定的に人材を確保するためには、国の積極的なサポートが欠かせません。
特定技能2号の業種拡大は、日本が生き残りをかける上で、避けては通れない選択肢と言えるかもしれません。
手放しには喜べない?特定技能2号の業種拡大を懸念する声も
特定技能2号の業種拡大は、確かに日本の未来を占う重要な決断であることは間違いありません。しかし、単一に近い言語・意識・慣習を共有する日本人にとって、まったく言語も文化も異なる人材を大々的に採用することが可能なのか、懸念する声も聞かれます。
実際、移民に関する議論は欧米でも活発化しており、特に紛争・迫害などを理由に自国を移動せざるを得なかった「難民」や、所定のルールに従わず入国する「不法移民」の扱いに関しては、多くの国が頭を悩ませているところです。不法入国を阻止するため、国境に鉄条網を設置した国もあれば、移民排斥・移民への規制強化を訴える政党の存在感が増している国もあります。
日本はどうかというと、他国と比べて難民認定の基準が難しい傾向にあります。令和4年における難民認定手続きの結果、日本で在留を認められた外国人の数は1,962人であり、うち難民と認定された人数は202人と、海外諸国に比べて非常に少ないのが特徴です。
言語的にも日本は不安を抱えており、日本語話者は世界的に少なく、英語などの外国語をネイティブレベルで話せる日本人も少ないため、外国人と意思の疎通をはかるのが難しいものと考えられます。こういった状況で、日本が特定技能人材を増やせば、社会的な混乱を招くおそれがあります。
一方で、そのような状況下でも外国人材をマネジメントできる企業は、大きく飛躍する可能性を秘めています。ただ恐れるだけでなく、外国人材のニーズを理解しつつ、自社のニーズにマッチさせることが重要です。
特定技能2号の業種拡大にともない、企業が準備すべきこと
現在特定技能人材を雇用している企業も、これから新たに特定技能人材を雇用しようと考えている企業も、今後の動きをただ見守るだけでは、自社の成長にはつながりません。
同業他社が積極的に動けば動くほど、採用活動で差をつけられることは明白であるから、少なくとも「外国人材を採用するにはどうすればよいのか」については、今のうちから情報収集しておくことが大切です。
以下、特定技能人2号の業種拡大にともない、企業として事前に準備すべき点について解説します。
自社で特定技能人材を受入れられるかチェックする
特定技能人材を雇用できる分野は決まっているため、自社の業種から鑑みて、そもそも特定技能人材を雇用できるのかどうか確認することが第一です。業種的に問題がない場合、次は自社でどんな仕事を任せられるのか、将来の展望も含め考えていきましょう。
これまで特定技能1号で人材を採用していた企業の中には、最長5年という期限がネックとなり、重要な仕事を任せられなかったところも多いのではないでしょうか。
かといって、在留期間を変更して長期にわたり在留してもらおうにも、学歴等の諸条件や任せたい業務とマッチせず、最終的に断念することは決して珍しくありません。
自社で特定技能人材を雇用するためには、自社がそのステージに立てているかどうか、事前に確認することが大切です。諸条件について検討した結果、外国人材を雇用するより、地元の人材を一から教育した方が早い場合も十分考えられるからです。
受入れ態勢の整え方を知る
2023年7月現在、海外人材市場において、特定技能2号人材はわずかな人数しかいません。
そもそも、これから特定技能2号の試験詳細が決まる状況ではあるものの、特定技能2号人材が市場に増えてから行動を起こしたのでは、人材確保において大きく後れを取ることになるでしょう。
そこで、まずは企業として「特定技能人材の受入機関」になるためにはどうすればよいか、情報収集を進めることが大切です。自社だけで十分なサポート体制を整えられない場合、登録支援機関に依頼する手もあります。最終的に、別の在留資格の人材を採用することにした場合であっても、それまでにリサーチした情報は何らかの形で活用できるはずです。
特定技能ビザについて、より詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。
◎参考記事:特定技能とは?ビザの申請方法と必要な書類を紹介
登録支援機関のサービス範囲について確認する
特定技能1号人材を雇用する際は、1号人材を支援する専門機関である「登録支援機関」のサービスを受ける企業が多く見られます。
支援内容は幅広く、外国人材を雇用する上で心強い存在ですが、基本的にサポートの対象は「特定技能1号人材」となっています。
これまで、特定技能2号人材が圧倒的少数であったこともあり、多くの登録支援機関は2号人材のサポートにまで言及していません。
つまり、今回の業種拡大にともない、特定技能2号にビザを変更する外国人が増えると、登録支援機関の選び方そのものも再検討が必要となります。
特定技能2号人材は、確かに1号人材のような支援を必要としませんが、だからといって自社での環境に慣れるまでのサポートをゼロにするわけにはいかないですよね。
とはいえ、自社が自前でサポート体制を整えられるかどうかはまた別の話のため、すでに特定技能1号人材を雇用している企業は、現在契約している登録支援機関に相談することをおすすめします。
自社のアピールポイントを整理する
特定技能人材は転職が認められているため、自社で人材を教育するだけでなく、将来的には特定技能人材向けの求人を出すこともあるでしょう。日本人と外国人では、求人で重視する箇所が異なりますから、外国人向けの求人を作成するための「アピールポイント」を整理しておくことをおすすめします。
日本に出稼ぎ感覚で来ている外国人は多く、年収や福利厚生に目を向けさせることは、優秀な人材の心をつかむための重要な材料になります。業務内容を具体的に提示する「ジョブ型雇用」が一般的な国から来ていることも多いため、従事する業務について詳細をまとめたジョブディスクリプションの作成にも慣れておきたいところです。
特定技能人材向け求人をどう作るべきか、もっと具体的に知りたい方は、以下の記事もおすすめです。
◎参考記事:特定技能人材向け求人の作り方|具体的な方法や注意点も解説
まとめ
特定技能2号人材が増えることで、日本企業は優秀な外国人材を確保しやすくなるでしょう。
将来の労働力不足に備える上で、今回の業種拡大は大きな一歩であることは間違いなく、海外諸国に優秀な人材が流出するのを防ぐことにもつながります。
ただし、この傾向が喜ばしいことかどうかはまた別の問題で、外国人が増えることにより、国内で新たなトラブルが生じる可能性は十分にあります。
Factory labをご利用いただければ、日本の事情に精通した特定技能人材を採用できるため、少なくとも自社で人的トラブルを抱えるリスクは大幅に軽減できます。