国土交通省の「建設業を巡る現状と課題」によると、日本の建設業就業者数は年々減少しており、ピーク時の1997年に685万人だった就業者数は2022年で479万人にまで減少しました。
ピーク時からおよそ30%減少したことになり、建設業における人材不足が深刻化していることが分かります。
このような状況に対応すべく、多くの建設業者は外国人労働者の雇用を検討し始めており、実際に受入れを開始している企業も少なくありません。
この記事では、建設業が長期にわたり人材不足に悩む理由と、建設業で外国人を採用するメリットについて解説します。
建設業が外国人を頼るほど人材不足に陥った理由
建設業というキーワードから、仕事が厳しい・業界体質が古い・給料が低いなどのイメージを連想する人は多いかもしれません。しかし、20代の求職者が建設業を目指すケースも増えてきており、必ずしも若手人材のすべてが建設業を敬遠しているわけではありません。
以下、建設業が人材不足からなかなか抜け出せない理由について解説します。
高い需要に対して供給が追い付いていない
国土交通省の「令和5年度(2023年度) 建設投資見通し 概要」によると、建設投資額の名目値は2012年の42兆円から上昇傾向にあり、2023年度の建設投資は70兆3,200億円となる見通しです。
内訳を見ると、政府投資が25兆3,400億円(構成比率36%)、民間投資が44兆9,800億円(構成比率64%)となっており、民間需要が高いことが分かります。
その一方で、建設業就業者数が減少傾向にあるということは、当然ながら人材供給に不安を抱える形になります。新卒者を十分に補充できなければ、高齢の労働者が現場・オフィスに残ることになり、DX化などへの対応が遅れることも想像に難くありません。
実際、建設業では「手書き」や「FAX」がまだまだ現役という職場も多く、ゼネコンにおいても現場の入退室管理を手書きで行っているところは珍しくありません。
十分な人数の人材を確保できず、そのための代替策を講じるのも難しい状況が、建設業の人手不足を深刻化させているものと推察されます。
人材が中小・地方にとどまりにくい
建設業は、決して新卒者など若年者にとって魅力がない業種ではありません。建設業向けの人材サービスを展開するヒューマンリソシアの調査によると、建設業は20代の転職による入職者数が際立っており、2020年には56,900人の増加となっています。
にもかかわらず、人材がなかなか定着しにくいのは、建設業就業者が何らかの理由から業界内外で転職しているためです。
厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査結果の概要」によると、令和4年(2022年)における建設業の入職者数は220,500人でしたが、離職者数は287,100人となっており、60,000人以上が建設業を離れていることが分かります。
転職にあたり、働きやすい環境・収入増などを目的とする求職者は、より大手・都市部の企業にシフトする傾向にあります。
中小企業・地方企業で働いた場合、どうしても待遇面で大手と差がついてしまい、求職者側も住まいや教育環境が整っている職場を選びたいと考えるのは自然なことです。
そして、人材不足に悩んでいる企業の多くが、中小・地方企業です。このような理由から、建設業の人材不足が解消されていないというイメージが、より強まってしまうのです。
建設業独自のルールが多い
建設業は、現場作業において人材派遣が認められていない業種の一つです。
そのため、現場で働く職人を人材派遣でカバーすることが難しく、基本的にはハローワーク・求人検索エンジン・求人サイトといった方法で人材を確保しなければなりません。
建設業が人材不足に悩まないためには、自社で働いてくれている人材をいかに残せるかが重要になります。本来であれば、過去の離職者の離職理由を丁寧に分析し、少しでも人材定着につながる方法を模索する必要があります。
しかし、建設業においては、企業側と離職者で考える離職理由につき、違いが生じているケースも珍しくありません。
企業側は、作業の厳しさ・現場における人間関係の難しさを主な理由としてイメージしているのに対して、離職者側は雇用の不安定さ・休みの取りにくさなどをあげることが多いようです。
例外的に、共通の理由としてあげられるものとしては、労働に対する賃金が低いことがあります。給与水準自体は他の業種よりも高いとされる建設業ですが、日給月給制という独自の給与制度があり、この点がネックになっている人材もいるようです。
日給月給制とは、1日を計算単位として給料を固定し、毎月1回まとめて支払われる給与形態のことです。いわゆるサラリーマンとの大きな違いは、働いた日の分だけ給料がもらえる点で、例えば台風などで仕事ができない日が続いた場合、その分収入も減少してしまうおそれがあるのです。
他には、安全用具・工具代が会社負担にならない、手書きで報告書を書くため現場からの直行直帰ができないなど、現代の事情にマッチしない職場環境であることも一因と考えられます。
離職理由のギャップを把握し、早急に自社の体制を軌道修正していくことが、離職率の低下につながるでしょう。
人材不足の建設業で外国人を雇用するメリット
外国人を雇用することは、単純に数の話で人材不足をカバーする以外にも、様々な利点があります。以下、建設業で外国人を雇用するメリットについて解説します。
真摯な人材を採用できる
母国を離れ、新しい環境として日本で働くことを選んだ外国人は、総じて強い熱意を心に秘めて日本にやってきます。言語や習慣の面でハンデはあるかもしれませんが、何事にも真摯に取り組む人材は貴重であり、ともすれば日本人労働者よりも“使える”人材に成長してくれる可能性があります。
また、真面目かつ柔軟に職務に取り組める若年者の外国人材を雇用することは、高齢化が進む職場環境の新陳代謝を上げる意味でも重要です。
過去に離職した若年者に対して「真面目さが足りない」といった印象を持った場合、外国人材の雇用を検討する価値は十分にあるでしょう。
海外視点での発想が得られる
多くの場合、外国人材は母国も含め海外で暮らしてきた経験が長いため、主に日本で暮らしてきた人にはない発想を持っています。日本人にはない考え方を取り入れたり、自社が海外に打って出る際のきっかけになったりする可能性があるため、社内スタッフに新たな刺激を与えることが期待できます。
外国人材を受入れるにあたり、マニュアル作成など再考すべき部分も増えることから、自社業務のブラッシュアップにもつながります。
いわゆる「やさしい日本語」の導入など、外国人と仕事をする上で押さえておきたいポイントを把握することで、スムーズに仕事を任せられるようになるでしょう。
参考記事:製造業で必要な「やさしい日本語」力|外国人材のための英語公用語化は必要ない?
建設業で外国人を雇用する際の“在留資格”とは
建設業に限らず、外国人に自社で働いてもらうためには、その外国人が日本に在留するために取得した「在留資格」が重要です。そもそも日本で仕事をしても問題ない在留資格なのか、仕事を任せるとしたらどこまで任せられるのかについては、在留資格によって詳細が異なるからです。
以下、建設業に従事できる在留資格について、主なものをご紹介します。
技術・人文知識・国際業務
技術・人文知識・国際業務の在留資格は、就労時点ですでに高度な技術・知識を持った外国人材向けの在留資格です。大卒程度の学歴や、10年以上の職務経験がある人材が取得する在留資格で、企業側も外国人材の技術を正当に評価した上で雇用しなければなりません。
例えば、技術職での採用を検討している場合は、建築士・設計職として働くイメージになるでしょう。また、技術・人文知識・国際業務の場合、必ずしも現場で働く人材だけを採用するのではなく、例えば営業担当・経理担当として外国人材を雇用する選択肢も生まれます。
注意点として、こちらの在留資格は単純労働が認められないため、現場の作業員等として採用するのはNGです。有能な人材を雇用できるチャンスがある反面、どんな仕事を任せたいかあらかじめ決めておかなければ、宝の持ち腐れになってしまうリスクがあります。
技術・人文知識・国際業務の在留資格について、より詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは|要件や申請の流れ・注意点も解説
特定技能
特定技能は、2019年4月に創設された、比較的歴史が新しい在留資格です。日本において労働力の確保が著しく困難な産業・分野において、人材不足解消のため外国人を受入れるべく創設されています。
建設業の場合、以下の3区分内での工事業での業務に従事させることが可能です。
- 土木区分
- 建築区分
- ライフライン、設備区分
特定技能には1号・2号の2種類があり、外国人材が特定技能1号の在留資格を取得するためには、技能・日本語能力を試験合格によって証明しなければなりません。その後も実務経験を積み、より難しい技能試験に合格することで、在留期間の上限のない(更新は必要)特定技能2号に移行することが可能になります。
なお、特定技能1号人材を受入れるにあたり、多くの企業では「登録支援機関」という専門機関に、受入れに関するサポートを依頼することになります。
建設業の特定技能について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:建設業の特定技能 | 受入要件や従事する業務・雇用の流れなどを解説
その他の在留資格
在留資格は数多く存在しますが、先にあげた2種類の在留資格以外で、建設業で働ける可能性があるものとしては次のような資格があげられます。
技能
在留資格「技能」は、一見特定技能に似た印象を受けますが、こちらは産業上の特殊な分野に熟練した技能を指します。建築・土木に関連するところで言えば、外国特有の建築・土木技能を持った大工などが該当します。
外国特有の建築・土木技能とは、例えばゴシック、中国式といった建築様式などが該当し、他には輸入石材による直接貼り付け工法なども当てはまります。
海外のニュアンスを取り入れた建築物を建てたい場合など、雇用の目的や雇用期間が決まっている状況であれば、検討してもよい在留資格かもしれません。
身分系の在留資格
就労制限が設けられていない“身分系”の在留資格も、建築業に従事できます。
具体的には、以下の4種類が該当します。
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 永住者
- 定住者
これらの在留資格は、そもそも外国人が一定期間日本で暮らすことを前提とした在留資格であるため、職種の縛りは実質的にないものと考えてよいでしょう。
建設業で外国人材を雇用する際の注意点
外国人材を雇用する際は、受入体制を整えるだけでなく、就業してからのサポートを絶やさないことも重要です。特に、建設業はケガ・事故のリスクが比較的高い業種であることから、労働災害を起こさないよう対策を講じましょう。
具体的には、安全指導のための資料に手を加えたり、訓練・説明時の日本語を分かりやすく具体的にしたりするのが有効です。可能であれば、母国語に翻訳したマニュアルを渡したり、図やイラストなどを使って状況をイメージしやすくしたりするとよいでしょう。
また、万一に備えて外国語対応が可能な病院・診療所の連絡先を把握しておくことも大切です。間違っても、労災事故の発覚を隠す、いわゆる「労災かくし」につながらないよう、管理職や従業員への教育を徹底しましょう。
日常生活のサポートも忘れずに
外国人材のサポートは、現場での指導だけにとどまらず、日本の生活面でのサポートも重要になってきます。税金・医療保険制度などは、日本人でも難解な部分がある制度ですから、場合によってはケガをした外国人材に付き添うなどの対応も求められます。
国によっては左側通行・右側通行の違いがあるため、自転車などを運転して通勤してもらう場合、その点についてもあらかじめ説明しておきましょう。また、在留資格によっては生活に必要な銀行口座・携帯電話を提供する必要があるため、これから採用する人材に必要なサポートの内容を確認しておくことが大切です。
まとめ
建設業における人材不足は、必ずしも人が集まらないことだけが原因とは限らず、需要の高さや離職率の高さなど複数の理由によって引き起こされています。自社で人材不足を解消するためには、人手が足りなくなる原因を正確に見据え、適切な対応をとることが大切です。
どうしても日本人労働者が見つからない場合、外国人採用によって活路を見出すのも一手です。
特定技能人材、技術・人文知識・国際業務人材の獲得に向けて動きをかけたい企業担当者様は、Factory labの人材紹介サービスをご検討ください。