製造業

ファクトリーラボ株式会社の代表

山本 陽平

公開日

September 12, 2023

更新日

シェア:

製造業のDXはどこまで進めればいい?解決できる問題・できない問題を解説

目次

人的資源をフルに活用して成長してきた日本の製造業は、近年人手不足に悩まされています。

それだけでなく、設備の老朽化も心配な要素の一つで、現場環境の変革は今後の成長を占う重要なポイントと言えるでしょう。

そこで期待されているのが自社の「DX化」ですが、実際のところ、自社でどこまで進めればよいのかイメージできない経営者・企業担当者の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、製造業がDX推進によって解決できる問題・解決できない問題について解説します。

DXについておさらい

そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がAI・IoT・ビッグデータ等のデジタル技術によって業務の流れを改善したり、新しいビジネスモデルを構築したりすることを指す言葉です。

DX推進によって、既存のシステムから脱却し、企業風土の変革に成功したケースも少なくありません。

DXには、既存の価値観・枠組みをテクノロジーの力で根本的に変化させる力があり、IT化と異なり社会・組織・ビジネスそのもののあり方が変わる点に特徴があります。

デジタル市場が拡大したことで、データはさらに増大していき、基幹システムが老朽化した多くの企業は対応に苦慮している状況です。

これまで現場を動かしてきた人材が引退を控え、世代交代の必要性が生じている中、新しい人材はなかなか見つからないことも、企業を悩ませる一因となっています。

また、日々進化するテクノロジーに対応できるような、先端IT人材の確保も難しくなってきています。

このような事情から、限られた人員の中でこれまで通りのパフォーマンスを維持するため、DXに注目が集まっているのです。

なお、製造業でのAI・IoTの活用に関して詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

◎参考記事:製造業でAIを活用するには|方向性や事例・メリットを紹介

◎参考記事:製造業のIoT化|メリットや活用事例・導入時の注意点を解説

製造業にDXが必要とされる理由

製造業がDXを推進すべき理由としては、コスト削減・人手不足解消・生産性向上など複数の理由が考えられます。

以下、主な理由をいくつかご紹介します。

コスト削減

これまでの大量生産・大量消費といったビジネスモデルが、次第に勢いを失いつつある状況において、事業スタイルも大幅な変更が求められています。同じ製品をたくさん作るのではなく、オーダーメイド・小ロット受注など、多様な製品を求められた数量だけ納品する生産体制に移行する企業も少なくありません。

しかし、急激に新体制へとシフトすることにはリスクもあり、全工程の情報をアナログ的手法で管理している工場の場合、確認の抜け・漏れが生じるリスクが高まります。

そこで注目されているのがDX化で、例えば受注からアフターサービスまでの情報をクラウドソフト等で見える化できれば、問題が発生した際に即座に対応しやすいなどのメリットがあります。

上手く自社にフィットする形でDX化が成功すれば、結果的に無駄なコストを省くことができ、製品の品質にも良い影響を与えることでしょう。余った時間は、新技術の開発・新規顧客からの発注への対応に充てることができ、好循環が見込めます。

人手不足解消

DX化を進めて、これまで人の手で作業していた業務を機械が代わりに担うようになれば、人手不足の環境下における社員の負担を軽減できます。機械と人の役割分担を明確化することで、人の手でしか成立しない仕事の見極めができるため、DXは企業をより発展させるきっかけになるでしょう。

これまで多くの現場で採用されてきた、1人の社員が複数の工程を担う「多能工」の存在は、日本の製造業を大きく発展させる上で欠かせないものでした。仕事量の偏りを減らし、手が空いた人材がサポートに回るという臨機応変な人材配置は、少数精鋭の現場で高いパフォーマンスを発揮していたからです。

しかし近年、高度な専門性・高いスキルを持つスペシャリスト(単能工)の存在が世界的に重視されており、ゼネラリストである多能工では対応しきれない状況も増えてきています。働き方改革の影響が及ぶ中、限られた時間でこれまでと同様のパフォーマンスを維持するため、DX化は多能工に代わる仕組みとして期待されています。

新たに採用しなければならない人数を減らすことで、人的コストのカットになるだけでなく、社員教育・待遇の充実にもつながります。その上で、一定の品質維持が期待できるため、どの企業・工場においてもDX推進は検討の価値がある選択肢です。

生産性向上

DX推進は、生産性向上の観点からも重要であり、設備の全自動・半自動化が実現すれば、生産効率は大幅に改善されるものと期待されます。バックオフィスに関しては、事務作業もある程度自動化が可能なため、限られた人員で仕事を回さなければならない中小企業・工場が生き残るには、DX化は避けて通れない課題と言えるかもしれません。

特に、日々変化する顧客のニーズに対応するためには、ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)を磨く必要があります。具体的には、ニーズに応じて自社のリソースを適材適所で活用しつつ、業務環境を最適化させる仕組み作りが求められるでしょう。

例えば、リアルタイムで工程管理ができるシステムを導入すれば、生産工程の進捗が可視化できるため、必要な分だけ発注に対応できます。在庫数が分かれば、棚卸しの手間を省くことができ、過剰在庫の防止にもつながります。

どこからスタートしてよいのか分からない場合は、紙媒体による記録の管理をストップするだけでも、大幅に作業効率は向上するはずです。ペーパーレス化が実現すれば、その後のDX推進もスムーズに進むのではないでしょうか。

これまで海外展開を続けてきた製造業は、今また国内回帰の時代を迎えており、新たなチャンスをつかむ上でDX化は自社の生産性を強化してくれることでしょう。製造業の国内回帰について、より詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

◎参考記事:国内回帰が進む製造業|理由や課題、対策について解説

製造業がDX推進によって解決できる問題

製造業がDXを推進していくと、どのような問題の解決が期待できるのでしょうか。

以下、経済産業省の「製造業DX取組事例集」を参考に、解決可能な具体的な問題をご紹介します。

業務内容の可視化

DX関連のツールは、業務内容の可視化を助けることで、業務効率化を実現しやすくするメリットがあります。事例集の中では、業務プロセスの分析ツールを活用し、自社に合ったプロセス整理を行うことで業務を可視化した製作所の例が紹介されています。

この製作所では、いきなり0から取り組みをスタートさせるのは難しいことから、知見を得るため外部の専門家に相談して援助を受けています。同様の悩みを抱える中小企業同士でサークルを作り、システムツールの開発に関する情報交換を行ったことも、知見を増やすのに役立ったようです。

取り組みの結果、生産現場の職人・営業担当者のマンパワーによって自社が支えられてきたことが分かり、事業の高付加価値化に向けた取り組みを強化するようになりました。また、部署間で人力によるデータ転記を行うプロセスがあったことにも気付けたため、必要なデータを自動で流用できるよう改善も進められています。

社内人材の適性を見極めるのはもちろんのこと、外部の援助を受けて改革を進めていったことは、ともすれば内にこもりやすい日本企業の中で新鮮に感じられる事例の1つと言えるでしょう。DX化を進めたいものの、実際に行動に移せず悩んでいる経営者・企業担当者の方は、社外との連携を模索するのも一手かもしれません。

部門の垣根を越えたノウハウ共有

複数の部署の人材が一堂に会し、意見を交わせるようになると、部門の垣根を越えたノウハウ共有がスムーズになります。このプロセスに関しても、DX化を進めることで、リアルな環境で会議を行うより効率化できます。

製造業における大部屋会議と聞くと、製品開発に携わる部門の人材が一堂に会し、製品開発について何らかの“すり合わせ”を行う状況を連想する人もいるかもしれません。Web会議が一般化する新型コロナ禍前であれば、企業規模が大きくなるほど集まる人数も多くなり、意思疎通や連携は難しかったものと推察されます。

この点を改善する観点から参考になる事例として、バーチャル空間上で各部門が仮想試作機によってすり合わせを行い、その場で得られた知見をICTで収集・活用するシステムを導入した企業のケースがあげられます。これにより、各部門でデータ共有・デザインレビューが可能となり、過去の製品データやクレーム情報などのドキュメントなどを使ったすり合わせができるようになりました。

活用にあたっては、図面作成・製品評価検証に関連するルールの整備も行われています。また、製品ごとの試作回数に制限を設け、3Dデータシミュレーションを義務付ける形で、製品開発フローも整備されています。

この仕組みは「設計開発プラットフォーム」と呼ばれ、製品開発プロセスの手戻り減少・品質向上・納期短縮の達成につながっています。設計段階において不具合を見つけたり、製造しやすい設計を追及したりすることが容易になったことで、業務効率化にも貢献しているものと考えられます。

プロセスの機械化

限られた人員を有効活用し、作業効率を高めるためには、プロセスの機械化が有効です。特に、職人の経験に依存するプロセスがある場合は、仕事をどこまで機械化できるかが重要になってきます。

事例集の中で紹介されている、制御盤製造を主力事業として手掛ける企業では、配線作業につき製造担当者である職人の知見に依存するケースが多いことを課題としていました。また、工程内における分業ができない状況のため、すべての工程を作業者1人が担当することは珍しくなく、実質的に作業進捗・工程管理が担当者任せになっていたようです。

この状況を解決するため、CADベンダーと提携し、工程ごとに必要な作業を標準化・可視化できるデジタル化ツールを導入したところ、従来の生産工程と比較して電線加工のプロセスを短縮化することに成功しています。

導入にあたっての工夫としては、製造担当者の理解を得るため、ベテラン人材が「より付加価値の高い業務に専従する」ものとして棲み分けを実施している点があげられます。

また、この事例においては、SEを設計専門の担当者として採用し、それをきっかけとした社内人材の育成に取り組んでいることも、スムーズな導入を実現する重要なポイントでした。

製造業がDX推進によって解決できない問題

DX化を進めても、製造業のコアとなる業務に関しては、やはり人の手が必要になってきます。その点を踏まえ、製造業がDX推進によって解決できない問題についてもご紹介します。

結局のところ人材は不可欠

DX化が進めば、限られた人員であっても仕事を回すことはできるようになるでしょうし、機械による作業が行われるプロセスでヒューマンエラーが発生するリスクは低くなるでしょう。しかし、完全自動で工場を回すことに関しては、大企業のように莫大な資金を投入できるならまだしも、中小企業における体制構築は現実的な選択肢ではありません。

また、新技術を導入すれば、その技術に精通した人材が必要になるのは当然のことです。よって、現場・工場を稼働させるにあたり、優秀な人材は不可欠ですから、採用活動にかけるコストを減らせる企業はごくわずかです。

クリエイティブ・アイデアといった要素は、一部をAIに任せて検討することはできるかもしれませんが、他社との類似製品を生むリスクもあります。結局のところ、人間にしかできない知的労働につき、DXで完全に代替するのは難しいと言わざるを得ません。

市場のスピードに合わせたキャッチアップ

製造業においても、技術革新のスピードは速くなっており、DXツール導入のタイミングによっては時代遅れとなるリスクがあります。DXに関する最新の技術を、経営者・企業担当者が常々キャッチアップすることは大変ですから、結局導入のタイミングを見送るままになってしまう可能性は十分あります。

DXツールが仕事をこなしてくれるのは、自社に導入した後であって、そもそも導入すべきかどうかの判断は企業側にゆだねられています。日々の業務に従事するかたわら、最先端の情報を追い続ける負担は大きいはずですから、どこかで損切りをして導入を決断する勇気が求められるでしょう。

データ利活用が可能な体制の構築

膨大なデータの利活用は、単純にDXツールを導入するだけでは進まず、自社の状況に合わせてデータ収集が可能な体制を構築する必要があります。そして、体制構築に関しては、自社の予算から費用をねん出し、自社に合う形で準備を進めなければなりません。

特に、属人化している仕事の内容をデータとして「見える化」する作業は、職場全体の理解を得られなければ進みません。導入担当者・経営者は、DX化を決断した後で、社員一人ひとりからじっくりヒアリングを行う覚悟が必要です。

まとめ

DXの実現には、無駄なコスト削減や人手不足の解消、生産性向上といったメリットがあります。

具体的には、これまで作業員に任せきりだった業務内容を可視化したり、複数の部門間でのノウハウ共有ができたりと、これまでの業務プロセスの大幅な改善が見込めます。

しかし、DXツールを導入すれば、運用できる新たな人材が必要になりますし、データ利活用ができる体制の構築が困難な現場も多いでしょう。

佐竹製作所では、大規模かつ全自動で稼働することを前提するFA(ファクトリー・オートメーション)ではなく、中小企業の事情に特化した「協働」・「省人化」を実現するFAシステムを提供します。

DX化を進めたいものの、自社の環境で導入ができるかどうか不安を感じている経営者・企業担当者の方は、お気軽にご相談ください。

ファクトリーラボ株式会社の代表

代表取締役社長

山本 陽平

1990年東京生まれ。2013年上智大学総合人間科学部卒業後、東証1部上場の資産運用会社に入社しコーポレート部門に配属。2017年、外国人採用支援及び技能実習生の推進をしているスタートアップに参画。事業部長として特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務の人材紹介や派遣事業の展開及び支援を取り仕切る。人的な課題、採用や定着に大きなペインを抱えた製造業に着目し、一貫したソリューションを提供することを目的として2022年にファクトリーラボを設立し代表に就任。