製造業

ファクトリーラボ株式会社の代表

山本 陽平

公開日

June 15, 2023

更新日

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製造業のIoT化|メリットや活用事例・導入時の注意点を解説

目次

生産設備・機械設備などをネットワークとつなげること、すなわちIoT化は、自社工場における情報収集を円滑にするなどの効果が期待でき、業務効率化にも貢献します。

しかし、発生するコストの高さ・活用アイデアの乏しさなどを理由に、なかなか導入を決断できない企業は少なくありません。

 実際のところ、大企業・中小企業を問わず、工場等のIoT化は積極的に進めていきたい施策の一つです。

この記事では、製造業でIoT導入を進めるメリットや注意点、具体的な事例などをご紹介します。

製造業とIoT

IoTとは、英語の「Internet of Things」の略で、日本語に直訳すると「モノのインターネット」となります。様々なモノを媒体にインターネット接続が可能となったことで、製造業の現場においても良い意味での変化が期待できます。

活用にあたってポイントとなるのは、現場に落ちている「データ」をIoT化によって拾い上げることです。具体的には、各種データの「収集」・「蓄積」・「可視化」・「活用」のサイクルを生むことが大切です

生産設備にカメラやセンサーなどを設置して、機器の稼働状況や製品に関するデータを収集し、蓄積されたデータについては、社員が閲覧できるようクラウドでの保管を行うようなイメージです。

しかし、データは蓄積するだけでは意味がなく、課題に応じて必要なデータを可視化する必要があります。

可視化する際は、社員が活用しやすいよう、分かりやすいレイアウトであることが理想です。データは刻々と蓄積されていくので、最終的に何らかの形で活用できる状況にまで進めていくことが、製造業におけるIoT導入で重要となります。

製造業でIoTを導入するメリット

日々工場で生じる事象が、データとして蓄積されていくと、将来的にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

以下、主なものをいくつかご紹介します。

生産性向上(生産管理の自動化)

比較的分かりやすいIoT化のメリットとして、生産管理の自動化による生産性向上があげられます。製品の生産管理に必要な原価・品質・稼働状況などのデータが自動的に取得され、需要の予測にも役立ちます。

必要なデータを抽出するための作業も最小限で済むため、状況確認がしやすくなります。人力で全面的に生産管理を進めるよりも、無駄のない管理が実現できるでしょう。

生産管理について、人力で対応している工場は決して少なくなく、手作業では生産性向上にも限界があります。例えば、以下のような作業が、すべてスタッフの手によって行われている状況を想像してみてください。

○生産計画の作成はExcel等の表計算ソフトで行う
○製造指示は紙ベースで、実績収集は紙への転記
○計画の予実対比はExcelに打ち込んで管理
○紙の資料もExcelで集計して報告書を作る

作業の多くを手作業に依存すれば、ヒューマンエラーの可能性は常につきまとい、一人ひとりのスタッフにかかる負担も大きくなります。

工場によっては、業務の属人化が進んでいて、誰がどこで何をしているのかが企業として明確になっていないこともあるでしょう。

 このような状況が続けば、人材が自社を離れてしまうと、工場が回らなくなることは明らかです。

最小限のスタッフで生産管理を進められるよう、IoTを導入することは、製造業における多くの企業にとって重大な課題と言えるでしょう。

熟練技術者のノウハウを可視化できる

業務の属人化は、生産管理の分野だけでなく、製造の現場においても深刻な問題となっています。貴重な技術があっても、それを継承できる人材がいなければ、やがて工場・会社をたたまなければならないかもしれません。

技術を次の世代に伝えていくことは、企業の競争力を維持する上で重要であり、ひいては日本の製造業の活力にも関係してきます。技術を数値化することで、製造や加工における「勘どころ」を見極め、良い品を効率的に作る仕組みの構築につながるでしょう

もちろん、自社にしか存在しない技術の流出リスクはあるため、機密情報を扱う場所や施設・区域について対策などを施す必要はあります。とはいえ、技術が消失してしまうと取り返しがつきませんから、技術の継承は待ったなしです。

IoT導入によって、ノウハウだけでなく、作業プロセスをカメラ・センサーで追いかけることも可能になります。スタッフや資機材の位置を把握して、導線を工夫するだけでも、工数削減が期待できるでしょう。

故障予測・異常検知により故障リスクを減らせる

工場内の設備が故障する予兆を把握して、適切なタイミングで対応できれば、ダウンタイムコストを発生させるリスクが低くなります。

具体的には、振動・傾きなどを検知できるセンサーを機器に搭載して、目視で確認しにくい異常を早期発見する例などがあげられます。

設備の状態を監視・分析して、故障する予兆が出たら点検・メンテナンスを行う手法は「予知保全」と呼ばれ、点検やメンテナンスの回数・設備保全担当者の負担を減らしたり、部品交換で発生するコストを削減したりするのに貢献します。

予知保全は、これまでの事後保全・予防保全に比べて新しい手法なので、導入メリットは大きいでしょう。

特に、機器が故障してから復旧対応となる事後保全は、復旧するまで商品製造ができなくなるため、機会損失が著しいものでした。予期せぬコストを減らしたいと考える企業・工場にこそ、IoTの導入が必要なのです。

サービタイゼーションの展開

サービタイゼーションとは、製品・サービスを統合して、新たな付加価値を提供するビジネスモデルのことです。

これまでの製造業で行われてきた、製品を製造し販売する従来型のビジネスモデルとは違い、製品価値向上や拡販につながるものと期待されます。

具体的には、自社製品を顧客に提供した後、その製品が将来的に故障するリスクを想定して、計画的に保守を行うサービスなどが該当します。製品の稼働状況・周辺情報をIoTで収集することにより、顧客体験の充実やトラブル防止に役立てるイメージです。

IoTの登場で、製品そのものの品質向上という観点だけでなく、顧客のニーズに合わせて商品価値を提供できるようになりました。「製品を売って終わり」ではなく、その後も顧客と長いお付き合いができるという点で、サービタイゼーションは魅力的です。

製造業でIoTを導入する際の注意点

IoTは、導入するだけで自社の問題を包括的に解決してくれるような、いわゆる「何でも屋」ではありません。

導入にあたっては、以下の点をよく検討した上で判断しましょう。

コストを正しく把握する

実際にシステム導入を検討するにあたっては、どのくらいコストがかかるのか計算しないと、企業が想定していた以上に負担が大きくなる可能性があります。システム・IoTデバイスの導入は、その目的や周辺環境によって環境構築が必要であり、一律でパッケージングできるものではないからです。

自社に存在する既存のシステムを活かすのか、それとも課題解決を優先してカスタマイズするのか、選択肢は大きく2つに分かれます。

コストを抑えられるのは前者かもしれませんが、これまでの設備そのものが陳腐化してしまうと、時代の変化に順応できなくなるおそれがあります。

かといって、新たな課題が生じるたびにリニューアルを繰り返すと、それだけコストも発生します。自社のコアとなる技術・設備はキープしつつ、課題を解決するための策を講じて、限られた予算を有効に使いたいところです。

Web広告などに書かれている費用感を鵜吞みにするのではなく、見積り・シミュレーションによって、具体的な金額を確認してから導入を検討しましょう。

通信障害のリスクを想定する

IoTデバイスから収集したデータは、ネットワーク経由でクラウドサーバに送られて分析されます。

データ収集の役割を担っているIoTデバイスのCPU性能は、PC等の端末と比較してさほど高くないため、収集したデータはそのままサーバに送信されます。

デバイス側は自社にとって必要・不要なデータの判別を行うことなく、サーバにデータを送信します。すると、通信容量が膨大になってサーバにかかる負担も大きくなるので、業務に支障をきたすおそれがあるわけです。

こういった問題を解決するためには、IoTデバイス近辺でデータ処理を行うエッジコンピューティングや、複数のデバイスから収集したデータを集約するIoTゲートウェイなどの方法が有効です。

しかし、これらの方法を採用すると、その分予算を圧迫してしまいます。

また、ネットワーク上において、監視カメラ・センサーなどのIoTデバイスは、消耗・故障のリスクを常に抱えています。インターネットの弱さは通信障害となってあらわれ、自然災害や工場のトラブル等により顕在化するでしょう。

どこに・何台くらいIoTデバイスを配置するのか、新しい方法を採用するのか、デバイスが壊れた際の修理はどうするのかなど、事前にシミュレーションが必要な問題は数多く存在します。

一度問題が発生してしまうと、回復までに時間がかかることが予想されるので、慎重に判断しなければなりません。

改善もセットで行う

作業効率化は、IoT導入の大きな動機の一つではあるものの、それだけを導入の目的に据えても発展性は期待できません。

コスト削減だけでなく、売上増・従業員満足度の向上・技術継承なども目的に含めるのであれば、それぞれの問題を解決するための導入プランを適宜検討すべきです。

一つの問題が解決することで、新しい課題が見えてくることは珍しくありません。コスト削減のための施策と、技術継承のための施策では、そもそも必要なデータからして異なります。

データ取得はIoTの肝と言える部分ですが、どのデータを活用することで目的を達成できるかはケースバイケースです。

例えば、オムロン社の金型製作において、ベテラン技術者の技術・経験・勘を数値化するために注目されたのは、「振動データを音に変換する」アルゴリズムでした。

一つの目的が達成された後、何も手を加えずにいることは、将来の退化につながります。IoTの活用を前提とした経営戦略を立てて、永続的な経営を実現したいところです。

製造業におけるIoT活用事例

自社でIoTの導入に踏み切る前に、どのような活用方法があるのか知っておくことは、予算を無駄にしないことにつながります。

以下、製造業におけるIoT活用事例についてご紹介します。

株式会社ブリヂストン

ブリヂストンでは、日本国内のトラック・バス事業者向けのデジタルソリューションサービスを提供しています。

タイヤの内圧を遠隔モニタリングする「Tirematics(タイヤマティクス)」で、あらかじめ計測したタイヤの空気圧と温度の情報を遠隔モニタリングして、日々のタイヤ点検の精度を向上させ、運行トラブルの防止につなげています。

タイヤの空気圧が適正に保たれていると、空気圧不足による燃費悪化を防ぐだけでなく、CO2排出量削減といった環境負荷低減にも貢献します。タイヤは車両本体を支える重要なパーツなので、こまめに状況をチェックすることで、メンテナンスコストの削減やタイヤトラブルの防止が期待できます。

株式会社土屋合成

土屋合成は、ボールペン等の文房具や自動車部品、時計・事務機器等部品のプラスチック成形を受諾製造する企業です。

成形機の稼働状況データの取得・ネットワークカメラの設置によって、成形機の状況が確認できるようになり、少人数でも製造ラインの24時間365日稼働を実現しています。

IoT活用によって、夜間・休日の人員が少ない場合でも、トラブル発生確認・状況把握がスピーディーに行えるようになりました。

現場からは当初反対の声もあがったものの、効果を実感していくうち、当たり前に使われるようになったそうです。

長島鋳物株式会社

IoT導入に関しては、必ずしも外部業者を通すケースばかりとは限らず、自社開発という選択肢もあります。

マンホール蓋枠のメーカーである長島鋳物株式会社では、過去にIT関連企業に在籍していた社員など、IoTに精通している人材が社内にいたことから、ニーズに合致した仕組みを開発することに成功しています。

各生産設備の動作データを取得して、生産管理上の注文情報と紐づけ、情報を一元管理できるようになった結果、注文から製造までダイレクトにつながり、多くの工程でタイムロス・作業負荷が減少しています。

まとめ

製造業で過去のビジネスモデルに執着していると、衰退は避けられません。

自動車業界におけるMaaSのように、新たな試みを実現していくためには、IoTなど先端技術の力をうまく活用することが大切です。

自社工場に即した仕組みを導入するのであれば、自社に合ったFA(ファクトリー・オートメーション)システムを開発するという選択肢もあります。

工場の自動化を進めるFAは、コスト削減・スピード向上・品質安定・安全確保を包括的に実現するソリューションです。

より詳しい導入事例などを知りたい方は、以下サイトからお気軽にご相談ください。

FA事業 | 佐竹の事業 | SATAKE GROUP 株式会社 佐竹製作所(satake-s.co.jp)

ファクトリーラボ株式会社の代表

代表取締役社長

山本 陽平

1990年東京生まれ。2013年上智大学総合人間科学部卒業後、東証1部上場の資産運用会社に入社しコーポレート部門に配属。2017年、外国人採用支援及び技能実習生の推進をしているスタートアップに参画。事業部長として特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務の人材紹介や派遣事業の展開及び支援を取り仕切る。人的な課題、採用や定着に大きなペインを抱えた製造業に着目し、一貫したソリューションを提供することを目的として2022年にファクトリーラボを設立し代表に就任。