出入国在留管理庁の報道発表資料によると、2022年6月末現在における在留外国人数は2,961,969人で、うちタイ人の人数は54,618人(構成比1.8%)に過ぎません。
しかし、対前年末増減率は+8.5%で、順位も台湾を抜き9位となっています。
タイ人エンジニアの採用に注目している製造業の経営者も少なくなく、今後よりホットな人材プールが構築されるものと推察されます。
この記事では、タイ人およびタイ人エンジニアについて、性格・宗教・教育・就職事情といった幅広い観点からご紹介します。
タイ人エンジニアを採用する前に知っておきたいこと
タイ人エンジニアを採用する前に、まずはタイという国がどんな特徴を持っているのか知っておくと、採用後の接し方・サポート体制を検討する上で参考になるでしょう。
以下、タイの基礎知識についてご紹介します。
そもそもタイってどんな国?
タイの正式名称は「タイ王国(プラテート・タイ)」で、首都がバンコクであることは多くの人に知られています。
日本人にとっては、観光地や移住先候補となることが多い国の一つで、国旗は青(国王)・白(宗教)・赤(国民/国家)の三色旗です。
東南アジアの中心に位置し、国土面積は約51万4000平方キロメートルで、日本のおよそ1.4倍です。
人口は約6,600万人(2021年12月現在)で、タイ族が多数を占めていますが、中華系やマレー系など様々な民族が暮らしています。
公用語はタイ語だが、観光地のホテル・レストランでは英語が通じるところもあります。
国際的に見て失業率が低いのも特徴で、2018年の失業率は1.05%となっています。
タイ人の性格
タイ人は、総じておおらかな国民性で、温厚・親切な性格の人が多く、極力平和的に問題を解決しようとするケースが多く見られます。
本質的に「毎日問題なく、快適に過ごしたい」と考える国民性のため、例えば車を運転していて渋滞に巻き込まれても、あまり気にしない人が多い傾向にあります。
その一方で自分に甘い一面もあり、例えば時間の感覚はルーズだと言われています。
また、高級車などでステータスを演出するなど、見栄っ張りな一面を持つ人もいるようです。
格差がある環境で暮らしているので、人間として深い部分での優しさが不足しているという意見もありますが、もちろん個人差がある話です。
自社でタイ人エンジニアを雇用する際は各人の性格にも注目して採用したいところです。
タイで信仰されている宗教
外務省の「タイ王国基礎データ」によると、タイ国民の94%が仏教を信仰しているとされます。日本でも仏教は盛んだが、大乗仏教ではなく上座部仏教を信仰しているので、寺院が地方コミュニティの中心となっています。
僧侶が呼ばれて儀式を行う場面も多く、冠婚葬祭はもちろんのこと、企業・商店でトラブルが重なった際にも僧侶が呼ばれることがあります。修行を積んでいる僧侶に対する信頼度が高いため、雇用する側としては、日本人と同じ感覚で仏教を理解していないことを意識しておきたいところです。
タイの教育事情
タイの学校制度は日本と同様で、小学校6年・中学校3年・高校3年・大学4年の「6+3+3+4システム」を採用しています。小中高の12年間は基礎教育機関とされ、無償化されています。
大学に進学する場合、入学試験に合格しなければなりませんが、一部無試験で入れる大学もあります。また、専攻分野により就学期間が異なるのが特徴です。
タイの高校では、1年目で文系・理系を選択しますが、その際に文系を選択した生徒は理系大学へ進学できないため、まずは理系を選択する生徒が多い傾向にあります。
JICAが2018年に発表した「タイ王国 タイ国産業人材育成ニーズに関する情報収集・確認調査報告書」によると、タイの1/3の国立大学には工学部があり、毎年およそ2万人が卒業しています。
タイの就職事情
タイでの新卒者就職はのんびりとしたペースで進み、大学を卒業してから就職活動を開始するのが一般的とされます。
大半の新卒者が、春から夏にかけて就職先を見つけるイメージです。
タイ人の平均年収は、概ね300,000~400,000バーツと言われており、日本円に換算すると1,300,000~1,400,000円ほどです。
しかし、エンジニアの平均年収は200万円弱ほどで、平均的なタイ人よりは高めです。
そのため、年収アップを目指すタイ人エンジニアにとって、日本で働くメリットは大きいものと推察されます。
日本語能力など、エンジニアとしてのスキル以外に求められる要素は多いですが、日本企業はタイ人に向けて自社のアドバンテージをアピールしやすいでしょう。
タイの対日感情について
アウンコンサルティング株式会社が2022年に行った「世界12ヶ国の親日度調査」によると、82.1%のタイ人が日本に好意的な印象を持っています。
四季の風景や日本食などに興味を持つ人も多く、総じてタイ人の日本に対する印象は良いものと考えてよいでしょう。
しかし、過去には日本の一方的な経済進出を理由とした反日運動も起こっており、日本にあまり良い印象を持っていないであろうタイ国民もいるかもしれません。
企業としては、自社または日本の文化・ルールを押し付け過ぎないよう注意しましょう。
在タイ日系企業について
JETRO(日本貿易振興機構)の「タイ日系企業進出動向調査2020年」によると、タイで活動が確認された日系企業は5,856社あり、うち製造業は2,344社となっています。
以下、タイに進出している大手企業を一部ご紹介します。
パナソニック
パナソニックは、タイのアユタヤに拠点を持ち、住宅用照明器具や配線器具など5種製品の製造を行っています。
これら電材事業は、日本だけでなくアジアを中心に世界中で高いシェアを誇ります。
アユタヤの工場では、材料の選定から組み立てまで一貫して取り組める環境が整備されており、高品質とコストカットを両立させています。
タイ人社員がベトナム・インドネシア工場への技能・技術支援を行うなど、スタッフのモチベーションも高いのも特徴です。
東レ
東レはタイで複数の事業を展開しており、繊維・テキスタイル・フィルム・プラスチックなど様々な取扱製品があります。
タイでの事業展開の歴史は古く、1963年には現地法人を設立し、2013年には進出50周年を迎えています。
バンコクのビジネス街・サトーンエリアで開発される、分譲マンション事業にも参画しており、東レグループのタイにおける信頼度の高さがうかがえます。
タイの拠点は、今後もASEAN地域の中心として重要性を増すことでしょう。
日系自動車メーカー
トヨタ・日産・ホンダ・マツダなど、多くの日系自動車メーカーにとって、タイは人気の国の一つです。
タイは「アジアのデトロイト」を合言葉に、2003年には自動車産業を重点産業に置いたため、タイ各地の工業団地には日系・海外の自動車メーカーが進出しています。
タイ人エンジニアを採用するメリット
日本企業がタイ人エンジニアを雇うことで、どのような効果が期待できるのでしょうか。
以下、考えられるメリットをいくつかご紹介します。
「マイペンライ」の精神でポジティブに
タイ人がよく使う単語の一つ・マイペンライは、日本語で「問題ない」や「どういたしまして」などと訳される、たくさんの意味を含む単語です。
日本語のニュアンスとしては「大丈夫」が近く、要するに「(細かいことは)気にしないでいい」という意味合いになるでしょう。
仏教の教えが浸透していることもあってか、基本的に誰かのせいにするような意識ではなく、問題が起こっても「どうにかなる」とポジティブにとらえる人が多く見られます。
ともすれば、日本人は責任感が強すぎるきらいがあるので、タイ人エンジニアの楽天的な姿勢が職場の空気を軽くしてくれることでしょう。
また、相手を尊重するスタンスの人が多いため、ギスギスした空気を作ることなく、前向きに解決策を考えることにもつながります。
日本人同士のコミュニケーションで、何らかの障害が生じている状況の場合、タイ人エンジニアが良い緩衝材になってくれるかもしれません。
ホスピタリティの高さ
一概には言えないものの、多くのタイ人は人助けの精神を持っています。
このような性格は仏教に由来するものと考えられますが、やはり「微笑みの国」と称されるだけあって、自分だけが良いと考える人は少数派と言えます。
タイ人には、お寺への寄付を日常的に行うなど、敬虔な仏教徒としての顔もあります。
計算して人助けをするというよりは、自分に余裕がなくても人助けをするような人が目立ちます。
職場で誰かが困っていたら手を差し伸べるなど、そのホスピタリティの高さが職場の雰囲気を温かいものにしてくれるでしょう。
それでいて、総じて穏やかな性格をしているのがタイ人なので、他の日本人スタッフからも信頼されやすいはずです。
向学心が旺盛
タイはアジア諸国の中でも高い大学進学率となっていて、青年識字率も高めです。
先述した通り、理系人材の輩出に力を入れていることから、その分優秀な人材に出会える可能性があります。
タイ人エンジニアの中には、英語や日本語などの外国語を学ぶ意識の高い人材もいます。
タイの日系企業に就職後、より仕事の選択肢を増やそうと考えて、日本語を学ぶために来日したタイ人も少なくありません。
もちろん、すべてのタイ人エンジニアがそうとは限りませんが、日本を目指すエンジニアに関しては向学心が旺盛と言えるでしょう。
自社の経営に良い影響を与えつつ、日本人スタッフと衝突しない人材を探しているなら、タイ人エンジニアはピッタリの逸材になり得ます。
タイ人エンジニアを採用する際の注意点
タイ人を自社で雇用するメリットは確かに大きいのですが、日本人を雇用するのと同じように考えるべきではありません。
以下、タイ人エンジニアを採用する際の注意点について解説します。
マイペースな傾向が見られる
タイ人は、一般的に時間にルーズなこともあり、日本の時間厳守の文化に戸惑う可能性があります。
さすがにタイでも、ビジネスシーンで時間を守らないことが失礼だという意識はあるものの、それでも日本人に比べて重視していない傾向があります。
自社で働いてもらう際は、少しずつ日本の時間感覚に慣れてもらえるよう、勉強会を設けるなどする工夫が必要になるでしょう。
職種によっては、成果を重視する形で評価するのも選択肢の一つです。
逆に、自社の制度そのものを見直して、フレックスタイムなどを採用することも一手かもしれません。
いずれにせよ、日本人スタッフ・タイ人スタッフそれぞれが、納得のいく形で仕事できる環境を作りたいところです。
厳しい指導は逆効果
タイ人の特徴的なメンタリティとして、争い事・ケンカを好まないという点があげられます。
これはビジネスシーンにおいても同様で、人前での叱責や厳しい指導は逆効果に働く可能性があります。
上司が日本人スタッフに指導するのと同様に厳しく叱責すると、タイ人の側では「なぜこの人はこんなことで怒るのか」が理解できず、結果として上司を信頼できなくなってしまうでしょう。
よって、個別に時間をとって「理由を説明する」ことが、タイ人の信頼感情勢につながります。
「その場しのぎの返答」に注意
タイ人の楽観的な性格は、ともすれば「面倒くさがり」とも解釈できます。
例えば、業務の進捗が滞り、眉間にシワを寄せているタイ人スタッフを見守っていると、実はまったく対策を講じていないことが分かったりします。
もちろん、性格は人それぞれですが、何事も「面倒くさいから先のことは考えていない」では話が進みません。
タイ人の状況を確認する際は、日本人への声掛けのように「大丈夫?」だけで済ませず、アドバイスやヒアリングを前提としたコミュニケーションが必要です。
在日タイ人の人数・就労資格について
冒頭で少し触れましたが、日本に在留している外国人の人数をランキング化すると、在日タイ人の順位は9位となっています。
1位の中国や2位のベトナムなどに比べると、ケタこそ違うものの、決して少なくない数のタイ人が日本で暮らしていることになります。
以下、参考情報として、タイ人の在留人数・在留資格などにつき、出入国在留管理庁が公表している情報をベースにご紹介します。
タイ人の在留人数と推移
出入国在留管理庁が公開している「在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」によると、タイ人の在留人数は以下の通り推移しています。
新型コロナウイルスの影響が特に強かった2020~2021年を除いて、タイ人の在留人数は増加傾向にあります。
また、2022年6月には、在留人数は54,618人に増えています。
在留資格の割合
出入国在留管理庁が公表している最近の在留外国人統計は、2022年6月末のものです。
その中でもっとも人数が多い在留資格は「永住者」の21,176人で、次が「日本人の配偶者」が7,102人となっています。
就労ビザでは「技術・人文知識・国際業務」の2,417人、「特定技能1号」の1,793人が多い部類に入ります。
技能実習生は約1万人近く、留学生は3,379人となっています。
まとめ
タイ人エンジニアを採用するにあたっては、日本人との違いを踏まえた上で、適切な処遇を検討する必要があります。
能力面で不安がなかったとしても、管理職のマネジメント次第では、十分に力を発揮できない可能性があるからです。
相手を尊重することを忘れず、丁寧に指導する体制を整えれば、他の人材にも良い影響を与えてくれるはずです。
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