外国人を従業員として採用する際、雇用契約書(労働条件通知書)を日本人とまったく同じ書式で作成すると、後々のトラブルに発展するおそれがあります。この記事では、外国人採用における雇用契約書作成時の注意点について解説します。
外国人を自社の従業員として採用するにあたり、注意すべき点の一つとして「雇用契約書(労働条件通知書)」の作成があげられます。
日本人向けの雇用契約書と違う点がいくつかある上、海外各国とのルールや言語の違いもあることから、なかなか一筋縄ではいかないのが現実だったりします。
外国人と雇用契約を結ぶには、外国人の事情に配慮した雇用契約書を作成しつつ、自社の採用リスクを減らすことが求められます。
この記事では、外国人と雇用契約を結ぶ際の注意点について、主に雇用契約書作成の観点から解説していきます。
外国人への雇用契約書(労働条件通知書)を作成する際の注意点
外国人に対する雇用契約書(労働条件通知書)を作成するにあたり、まず気に留めておきたいことは、基本的に「日本の労働法」に則って作成しなければならない点です。
具体的には、以下のような点に注意しましょう。
大前提として、日本の労働法を遵守した雇用契約書を作成する
雇用契約書を作成する際の大前提になりますが、日本国内で就労する限りにおいて、日本人・外国人を問わず、原則として労働関係法令が適用されます。
労働基準法第3条において、労働条件面での国籍による差別が禁じられているためです。
よって、基本的には日本人労働者と雇用契約を結ぶのと同じように、労働法も含め日本の法律を遵守した内容でなければなりません。
また、外国人労働者にとって、雇用契約書は在留資格申請に不可欠な書類である点にも注意しましょう。
外国人に限った話ではなく、雇用契約書を企業と従業員が取り交わすのは、双方の理解と合意を確認するためですよね。
外国人の場合、そういった意味合いで契約書を取り交わすのに加えて、就労ビザ申請の際は「入管に雇用契約書のコピーを提出しなければならない」という事情があります。
在留資格を申請後、外国人労働者本人に対して、審査官から連絡が入ることもあります。
もし、その段階で契約内容に対する回答に不備があれば、最悪の場合、在留許可が得られない可能性もあります。
そのような事情から、外国人労働者にとって、雇用契約書は非常に重要な書類と言えます。
企業担当者は、その点に十分留意した上で、雇用契約書の作成にあたらなければなりません。
日本語だけでなく、外国人の母国語でも作成する
外国人労働者と雇用契約書を取り交わす際は、外国人の母国語にも配慮する必要があります。
具体的には、以下の2つの方法のうち、いずれかの形で対処することが望ましいとされます。
外国人本人に周知した労働条件と、実際の雇用契約書の定めに矛盾がある場合は、在留資格申請に悪影響が及ぶかもしれません。
そのため、これから働いてもらう外国人には、労働条件を含む契約内容を正しく理解・把握してもらう必要があります。
実際に職場で勤務してもらう際、外国人自身が理解できる言語で書面を準備していれば、トラブルを未然に防げます。
その点を踏まえ、母国語の雇用契約書を作成する際は、例えば「私が理解できる言語等により労働条件等の説明を受け、雇用契約書につき十分に理解し、承諾いたしました」といった内容の文言を加えておくとよいでしょう。
できる限り分かりやすい表現でまとめる
日本語は回りくどい表現が多く、それに専門用語が加わると、日本人でも読みにくいと感じますよね。
日本人向けの雇用契約書も、読み慣れていない人材だと理解に時間がかかるケースは珍しくないので、日本語の契約書に関しても分かりやすい表現でまとめましょう。
そもそも、雇用契約書に関しては、法律で定められた事項さえ掲載していれば、どのような書式でも問題ありません。
よって、法律用語・専門用語を多用する必要はなく、外国人が日本語ベースでも理解できる雇用契約書を作っておくと、外国人従業員にとってはありがたいはずです。
翻訳を自社スタッフで行う際も、かんたんな表現でまとめてある原本があった方が、母国語に翻訳する際の負担は少なくなるでしょう。
意味合いがまったく変わってしまう表現は問題ですが、日本人向け雇用契約書と基本的な構成が同じであれば、漢字に読み仮名を振ったり、単語の意味を解説したりするだけでも、外国人材の理解度は深まります。
外国人への雇用契約書(労働条件通知書)作成時の留意事項
雇用契約書は、法律で書面での交付が決まっている事項がいくつかあり、外国人の場合は「在留資格が取れなかったケース」を想定して契約書を作成する必要があります。
実際に外国人向け雇用契約書を作成する際は、以下の点に留意しましょう。
雇用契約書と労働条件通知書ではどちらが望ましいのか
労働基準法上、企業が労働者と雇用契約を結ぶ場合、労働者に労働条件通知書を交付する義務があります。
労働条件通知書には、労働者に必ず書面の交付をもって明示しなければならない項目が記されており、雇用契約書を取り交わさない職場であっても必ず交付しなければなりません。
これに対して雇用契約書は、必ずしも職場で発行する義務はないものの、労働者と企業がお互いに契約内容に合意していることを示す証拠書類となります。
後々になって、労使トラブルが生じるリスクを減らすことにつながるため、やはり雇用契約書を取り交わした方がベターです。
日本では、契約書が形式的な内容となっていることが多く、紛争に関して「話し合い」で解決する規定を設けていることも少なくありません。
これに対してアメリカなどの国では、後に不利益を被らないために、様々な場面を想定して契約書に規定する傾向にあります。
やや極端な話になってしまいますが、そういった国で暮らす人々は、基本的に契約書に書かれていない事項は「契約上は存在しない」ものと解釈するおそれがあります。
当然、そのような状況が発生すればトラブルは避けられないため、外国人労働者と雇用契約書を取り交わすことには重要な意味合いがあるのです。
明示すべき事項について
雇用契約書の中で、外国人労働者に書面で明示すべき事項(絶対的明示事項)としては、以下のものが当てはまります。
また、就業規則等に定めがある場合に明示すべき事項(相対的明示事項)には、以下のようなものがあげられます。
明示事項の中で特に注意すべきポイント
先ほど取り上げた明示事項の中で、外国人向け雇用契約書を作成する際、特に注意したいポイントがいくつか存在します。
具体的な内容は以下の通りです。
給与
給与の金額は、同じ業務に携わる日本人と同様の水準であることが求められます。
同じ業務をする日本人がいない職場では、同地域で同じ業務に従事する、他社の日本人に支払われる給与水準と同等程度の給与額でなければなりません。
在留資格申請のプロセスにおいて、給与額が最低賃金水準を下回っていること、他の日本人就労者より低いことが分かった場合、就労の在留資格が許可されない可能性が高いため注意が必要です。
就業場所や従事する業務
外国人材を採用する場合、在留資格の範囲を逸脱する業務内容は認められません。
具体的には、介護分野の特定技能人材が、ホテル等でフロントを任されるケースなどが該当します。
また、卒業した大学・専門学校や履修科目と関連性がある業務に従事していないと、申請書類との矛盾を指摘されるおそれがあります。
例えば、大学の工学部を卒業した外国人材をエンジニアとして雇う場合、菓子製造業の会社に勤めるなら、菓子の袋詰めをメインとした業務に従事するのは認められない可能性が高いでしょう。
よって、雇用契約書を取り交わす際は、必ず在留資格の範囲で通用する業務内容を定めましょう。
研修に関すること
外国人材は、在留資格に応じてできる仕事がシビアに制限されます。
研修に関しても同様で、業務上必要な研修を実施する場合は、具体的に研修内容を明記しておきたいところです。
例えば、技術・人文知識・国際業務人材の場合、現場での単純労働は認められていません。
しかし、研修時に単純労働が含まれている場合は、それが「業務上必要である」ことを雇用契約書上に明記すれば認められる場合があります。
契約期間
外国人労働者の雇用契約は、在留期間を超えることはできません、
在留期間を超えての労働は、資格取り消しにもつながるため、記述には注意しましょう。
停止条件(停止条件付雇用契約)について
外国人材を雇用する上で悩ましいのは、働く上で必要な在留資格が、100%認められるとは限らない点です。
万一、在留資格が認められない人材と雇用契約を結んでしまった場合、在留資格のない人材を雇用することになり、いわゆる不法就労という形になってしまいます。
よって、高卒・大卒の卒業見込者を採用するケースと同様に、所定の条件が成立することを条件にした雇用契約書を取り交わす必要があります。
具体的には「在留資格を取得した際に雇用契約が発効する」旨を記載しておきましょう。
注意点として、停止条件に関しては、採用予定の外国人に対して口頭でも説明しておくことをおすすめします。
「在留資格が認められない場合は、あなたを雇用することはできない」と伝えておくことで、不当な解雇と誤解されないようにしましょう。
外国人と雇用契約書を取り交わす上で配慮したいこと
外国人と雇用契約書を取り交わす段階では、雇用契約書に書かれている内容だけで説明は十分と考えず、必要に応じて口頭で解説を入れるなどの配慮が必要です。
その一方で、口頭で説明すれば問題ないとされる事項についても、きちんと書面にしたためておくことが大切です。
「労働条件の重大な誤解」を招かないよう丁寧に説明する
企業が外国人労働者と雇用契約書を取り交わしたとしても、雇用契約書に書かれている労働条件を労働者側が十分に理解していなければ、将来的に労働基準法違反につながるおそれがあります。
労働基準法第15条2項では、契約内容と実際の労働内容が異なる場合、労働者は即時に契約を解除できると定められています。
しかも、採用した外国人労働者が14日以内に帰郷する場合、企業の側で必要な旅費を負担しなければなりません。
こうなってしまうと、企業としては採用コストだけが無駄に発生するだけでなく、さらに渡航費用まで支払う羽目になり、まさに泣きっ面に蜂という状況です。
最悪の事態を避けるためにも、雇用契約書に書かれている内容を外国人労働者に説明する際は、時折口頭での解説を加えながら説明するのが望ましいでしょう。
可能であれば、外国人の母国語が分かる人材に通訳をお願いすることも検討したいところです。
相対的明示事項も書面で伝える
就業規則等に定めがある場合に明示すべき事項(相対的明示事項)は、必ずしも書面で明示する必要はありません。
しかし、せっかく雇用契約書を取り交わすのであれば、すべて書面でまとめて取り交わした方がよいでしょう。
ちょっとした懸念事項が発生した際、すべての明示事項が書面でまとまっていると、企業も労働者も確認するのが楽です。
外国人労働者であればなおさら、英語や母国語で詳細が説明されていた方が安心できるでしょう。
口頭での契約はトラブルのもと
日本では、口頭で契約が成立する場合もありますが、外国人と契約を結ぶ際は口頭での契約は避けるべきです。
そもそも、日本語がいくら堪能な外国人であっても、日本語ネイティブでない場合は誤解が生じる可能性が高いからです。
働き始めてから「そんなことは知らない」という話が出てくると、そこから信頼関係を回復するのは困難です。
企業にとっても無益な時間を増やす結果につながるため、契約の場面では書面を交わすことが基本です。
まとめ
外国人と雇用契約を結ぶのは、日本人との間で結ぶ場合に比べて、気を付けなければならない点が多く見られます。
契約に対する意味合いが、日本人とは大きく異なる国もあるため、慎重に契約を進める必要があります。
自社の採用ノウハウが十分でない場合、トラブルに発展することも珍しくありません。
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